“くるりポイ”はエコ効果絶大、仕組みを作ってむしろ拡大すべきだ

高橋 克己

“くるりポイ”なる語をご存じだろうか? 斯くいう筆者もつい先日までは聞いたことがなかった。知ったきっかけは朝のワイドショー。政治ネタを除けば結構ためになる。偶さか月曜の「モーニングショー」と水曜の「グッとラック」が連続して“くるりポイ”を取り上げたので気になったのだ。

どういうものかといえば、スーパーなどでレジ後に生鮮食料品などを持ち帰る際、白色トレーを“くるり”と裏返し、ほどいたラップで肉や魚を包み、またはロール状のポリ袋に中身を詰め、白色トレーを“ポイ”するという次第。ポイする屑籠がない場合には床と台の隙間に足でずらし込む輩も。

かずなり777/写真AC(編集部)

筆者は「何と頭の良い所業!」と感心したのだが、番組作りは両局ともこれに否定的なスタンス。「マナー違反どころではない行為にスーパーが困っています」と司会が紹介すれば、コメンテータたちは口を揃えて「自分のことしか考えない」とかいった客の批判ばかりに終始する。

スーパー側の言い分も「不衛生だ」とか「処理に困る」とか否定的だし、「雑菌で従業員が感染する危険がある」などという識者の意見なども紹介する一方、客側のコメントは「ゴミが出るからね」との「自分のことしか考えない」との批判を裏付けそうな画像だけを垂れ流す。

が、こうして番組が批判調になればなるほど、筆者の天邪鬼が「果たしてそうだろうか」と頭をもたげる。この違和感について白髪頭でここ数日考えたので、そのことを以下に述べたい。

「必要は発明の母」なる言葉がある。他方、企業などではここ最近、「モノづくり」に加えて「コトづくり」ということが良くいわれる。前者は読んで字の如しだが、後者の「コト」とは要すれば「モノ+システム」といったような、顧客のニーズを満たす「仕組みをも含む概念」といって良かろう。

“くるりポイ”などはまさに格好の「コトづくり」と筆者には思えた。つまり「仕組み」のヒントを顧客が「必要だから発明」し、目の前で提供してくれているという訳。番組によれば目下約5%の客がこれをしているそうだが、白色トレーを簡単に戻せる仕組みを作れば大幅に増えるのではなかろうか。

では筆者が考えた仕組みを説明しよう。それは呆気ないほど単純で、大まかな作業手順や包装材料の種類は変わらない。ラップの量が倍増するが、ポリ袋の量が減り白色トレーの再使用が容易になるから包装材料費は軽減されよう。ただし、人件費は若干増えよう(ラップ掛けを自動化している場合は改良が要るかも)。

スーパー側の手順はこうだ。肉を例にとる。従来は、①白色トレーに肉を置いてから、②ラップを肉の上からトレーの底まで回し掛けて完成。改定手順は、①白色トレーにラップを敷いて肉を置き、②そのラップを肉の上からトレーの底まで回し、更に表側の半分位まで回し掛けて完成、ということ。

この方法なら、レジを終えるまで白色トレーとラップが果たしてきた機能は従来と変わらない上、白色トレーを持ち帰りたくない客はラップをほどいて外せば良い。肉はラップで1重巻かれているから客の手に触れないし、白色トレーも肉に直接は触れていないから使用前と変わらない。

スーパーはトレーの回収棚を設置しておき、1日何回か回収すれば良い。今でも買い物かごやカートを整理する要員がいるのでトレー回収は彼らの仕事になろう。回収されたトレーは使用前と変わらないから、洗うなり検査するなりして再使用に供すれば良いと思う。新規トレーの購入費削減になる。

勿論、客の中にはトレーごと持ち帰りたい者もいるだろう。が、この“積極くるりポイ”の方が圧倒的にエコだ。詳しくは、拙稿「小泉大臣、“レジスト”よりずっと有効な廃プラ対策がありますよ」 をお読みいただきたいが、その事情はこうだ。

一般に廃プラスチックのリサイクルは発生場所から遠ざかるほど困難になる。少量多品種化が進み、汚れも酷くなり、回収漏れを起こし易くなるからだ。最も効率的なのは製造工場で発生する廃プラ、その多くは現場で原料に戻され、単一素材のシート状の切れ端などがリサイクル業者に引き取られる。

家庭からのプラゴミではPETボトルと発泡PSの白色トレー以外のリサイクルはほとんど困難だ。が、両者は一見してそれと見分けが付くからリサイクルし易い。世間には今もビニール袋派とポリ袋派がいることだろう。が、それらの樹脂の種類を言い当てられる者は一部の専門家だけだろう。

ビニールとは塩化ビニールのことだが、これにも、文房具などを台紙と凹ませた透明ビニールシートの間に入れた包装(ブリスター)などに使う硬質ビニールと、柔らかくする助剤(可塑剤)を配合した軟質ビニールがあり、後者は壁紙や電線被覆などに使われる。

ポリには恐ろしいほどの種類があり、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル(PET)、ポリスチロール(PS)など量が多いものから、韓国への輸出厳格化で一躍有名になったポリイミド(PI)まで多種多様な上、PEは密度、PPは延伸処理の有無などによっても性能が格段に変化する。

そして何よりもリサイクルを拒むのは異種の混入だ。例えばPEにPPが少しでも混ざれば異物となってPE製品には再生できない。しかも両者の見分けは極めて困難だ。ということで誰にでも一見してそれと判別できるPETボトルと白色トレー(発泡PS)だけが別格のリサイクル優等生という訳だ。

その白色トレーも各家庭に持ち帰られれば、洗ってゴミに出す良心派もいれば、肉汁が付いたまま出す不精者もいて、リサイクル業者は洗浄に膨大な手間とコストを掛けねばならない。だがどうだろう、客がみな“積極くるりポイ”をすれば、清潔な白色トレーの回収率が限りなく100%に近づく。

明日からでも採用できるこの“積極くるりポイ”、各スーパーにおかれては直ぐにでもご検討を願いたい。当方、アイデア料は申し受けませんので。

高橋 克己 在野の近現代史研究家
メーカー在職中は海外展開やM&Aなどを担当。台湾勤務中に日本統治時代の遺骨を納めた慰霊塔や日本人学校の移転問題に関わったのを機にライフワークとして東アジア近現代史を研究している。