韓国国防相の強硬発言への深読み

韓国の鄭景斗国防相は4日、全軍指揮官の前で、「強い力だけが韓半島の平和プロセスを支えることができる」とし、「訓練と実践はわが軍が存在する重要な価値」と述べたという。文在寅大統領が南北融和路線を走り出して以来、韓国軍最高指導者のこのような発言は久しく聞くことがなかった。感動する一方、「どうして今、韓国国防相は軍幹部たちを前に強硬路線を思わせる発言をしたのだろうか」と考えざるを得ない。

鄭景斗国防相(2019年11月1日付、国防日報から)

興味深い動きは、北朝鮮の金正恩党委員長と友好関係を維持しているトランプ米大統領は3日、英ロンドンで開催中の北大西洋条約機構(NATO)首脳会談に参加し、記者会見の中で北朝鮮問題に言及、「わが国の軍事力は強力だ。私はこれを使用する必要がないことを望むが、必要なら使用する」と対北軍事攻撃の可能性を示唆していることだ。

実際、米軍の偵察機と哨戒機が朝鮮半島上空を飛行している。地上だけでなく海上の監視も強化し、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)発射など北の軍事動向を探っている(韓国聯合ニュース日本語電子版4日)。

一方、北朝鮮外務省は4日、「われわれが米国に提示した年末の期限が日々迫っている。残されているのは米国の選択であり、近づくクリスマスプレゼントに何を選定するかは全面的に米国の決心にかかっている」(中央日報日本語電子版)と警告。

また、朝鮮中央通信によると、金正恩委員長は軍幹部たちを引き連れて白頭山に登っている。朴正天陸軍総参謀長や司令官、軍団長などが同行。非核化をめぐる対米交渉の期限とする年末を目前にして、米国が態度の変化を見せない場合は軍事行動に踏み切ることを示唆したものとの観測も出ている。韓国聯合ニュースは4日、「金正恩氏、軍幹部らと白頭山へ、強硬路線への転換示唆か」と報じている。

そして4日の韓国国防相の強硬発言だ。米・韓・朝の一連の軍事的言動は何を示唆しているのだろうか。中央日報によると、「鄭国防相が主管したこの日の会議には朴漢基合同参謀議長をはじめ、金勇佑(キム・ヨンウ)陸軍参謀総長、沈承燮(シム・スンソプ)海軍参謀総長、金俊植(キム・ジュンシク)空軍参謀次長、李承都(イ・スンド)海兵隊司令官など、各軍の主要指揮官と兵務庁・防衛事業庁などの主要職位者150人余りが参加した」という。

ちなみに、韓国のソウル東部地検は4日、柳在洙(ユ・ジェス)元釜山市経済副市長への監察打ち切り疑惑と関連し、青瓦台(大統領府)秘書室の家宅捜索に着手した。柳氏は11月末、収賄容疑などで逮捕されている(朝鮮日報日本語電子版4日)。このニュースも無視できない。地検が大統領府へ家宅捜索を実施したのだ。

朝鮮半島の情勢は緊張してきたが、中国の王毅国務委員兼外相が4日、韓国を訪問した。王氏の訪韓は米国の最新鋭地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(サード)」の韓国配備をめぐって両国の対立が起きて以来初めてだ。王毅外相は4日、康京和外相と会談し、5日には文在寅大統領を表敬訪問するという。中国外相の訪韓目的は、米軍と南北間の軍事的動きを警戒し、韓国に危険な軍事行為を控えるように警告を発する狙いがあるのではないか。

米韓軍の間で秘かに対北軍事活動が進行中とすれば、文大統領が米韓両軍の活動を阻止するように出た場合、軍クーデターに発展する可能性も排除できない。トランプ米政権は北との軍事衝突は願わず、文大統領の辞任を促し、新しい政権の発足を期待しているはずだ。

中国は事前に米韓軍の動きをキャッチし、韓国側に自省を促す一方、北側には米韓軍の動きを知らせ、注意を喚起しているはずだ。金正恩氏の白頭山登山は米韓への対決決意を誇示したものだろう。

日本政府は米韓両国軍から何らかの知らせを受け取っているかは不明だが、米軍が駐留し、米軍家族が日本に住んでいることもあって、米国側は日本と情報を共有している、とみて間違いないだろう。ただし、日本の国会が「桜を見る会」問題に拘泥して、朝鮮半島が大きな危機に直面していることへの警戒心がないことに懸念を感じる。

以上の内容は、韓国聯合ニュース日本語電子版と中央日報日本語電子版のニュースをもとに、当方が深読みしたものだ。

ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年12月5日の記事に一部加筆。