「お前が言うな!」朝鮮日報が社説で中国外相を痛烈批判

高橋 克己

「韓国で韓国の同盟を攻撃した中国外相、自分の庭とでも思っているのか」。

これは6日の朝鮮日報の社説の見出し。この社説で朝鮮日報は、中国王毅外相と韓国康京和外相との間で4日に行われた会談での発言を含む、王外相の韓国での一連の言動を痛烈に批判した。

王外相は4日午後、康外相と2時間20分会談した後に晩餐も共にし、両国関係と朝鮮半島情勢など懸案について幅広く話し合い(ハンギョレ)、翌5日は韓国人100人を招いた昼食会の後、青瓦台に文大統領を30分間表敬訪問した(東亜日報)。韓国各紙の報道から王外相の発言を拾うと次のようだ。

  1. 大国が小国をいじめること、強者が弱者をないがしろにすること、他国の内政に干渉することに反対する(外相会談)
  2. 世界平和の最大の脅威は単独主義と覇権行動だ(外相会談)
  3. 中国復興は歴史の必然であり、誰も止めることはできない(外相会談)
  4. THAADを適切に処理してほしい(外相会談)
  5. 互いの核心的利益と正当な関心事を尊重するべきだ(外相会談)
  6. 国際情勢は一方主義と強権政治の脅威を受けている(大統領表敬)
  7. 両国は基本的な国際規則を順守しなければならない(大統領表敬)
  8. 両国は対話と協力を強化し、多国主義、自由貿易を守護しなければならない(文大統領表敬)
  9. THAADは米国が中国を狙って作ったものだ(韓中友好昼食会)
  10. 互いの核心的な事項を配慮しなければならない(韓中友好昼食会)
  11. 一連の新たな共同認識を導き出した(外相会談の評価)
  12. 来年の両国の高官級交流についても深く意見を交わした(外相会談の評価)

どの発言も、まさに冊封した属国に対する発言そのものだが、朝鮮日報が特に憤っているのは1と2だ。韓国より中国を何倍も嫌悪している筆者としては、韓国紙の言であるのも忘れて胸がすく思いがした。以下に引用するが、「相手を罵る技術」だけは日本は韓国の足元にも及ばない。

同外相の話を聞いて驚いた人も多いだろう。中国外相が他国で、自分の国を非難したかのように聞こえたからだ。その一言一言はこれまで中国がしてきた行動そのものだ。だがもちろん、王外相はトランプ米政権の「米国優先主義」を批判している。最近のトランプ大統領の行動には問題が多いが、これに対して中国ばかりはあれこれ言うことができない。それよりもっと甚だしい国が中国だからだ。

つまりは「中国よ、お前が言うな!」という訳だ。「大国が小国をいじめること」、「強者が弱者をないがしろにすること」、「他国の内政に干渉すること」は、どれも韓国がTHAADを導入してこの方、中国が韓国に対してしていることではないか、と。

だが、自国のことをいうだけで、韓国紙からはまだしも青瓦台からは、北朝鮮のことは元よりウイグル問題などの、中国の人権侵害への非難をついぞ聞いたことがない。いかにもこの国らしい。

世界各地のウイグル解放運動(世界ウイグル会議Facebookより)

他方、「世界平和の最大の脅威は単独主義と覇権行動だ」では、トランプの「America First」を「米国優先主義・覇権主義」と批判する王外相に対して、同社説は、最近のトランプの行動を批判しつつも「もっと甚だしい国が中国だからだ」と「おまいう」を炸裂させている。

王外相が9と10を発した5日の昼食会についても、「韓国側の“(中国に)友好的な人物”100人を急きょ(*2日前らしい)集めて昼食会をした。それ自体も無礼に当たる可能性があるのに、その昼食会に37分も遅刻してきた。しかも、特に謝罪もなく」これらの発言をしたと憤慨している。

文大統領の扱いについても、「習近平国家主席は韓国大統領特使を2回も香港行政長官の席に座らせた。韓国をわざとないがしろにしたものだ。王外相は文在寅大統領と挨拶する時、腕を叩いたこともあった」と、何時のことだか判らない出来事を持ち出して怒りをあらわにする。

そして

“30・50クラブ(所得3万ドル・人口5000万人以上)”入りした国は韓国・米国・日本など7ヵ国だけだ。南北合わせれば7700万人を超え、英仏より多い。その韓国を“小さな国”とは呼べないだろう。中国は韓国・日本・ベトナムなど隣国にだけ“小”の字を付けている。

と、ここでは反日を忘れて日本の分まで文句を言う(日本は別に気にしていないけど)。

同社説は返す刀でこう文政権を批判して結んでいる。

こうした中国に“核の傘の提供をお願いしたらどうか”という提案を大統領統一外交安保特別補佐官がした。いくら冗談めかして言った話だとしても、正気のさたなのか問わずにはいられない。

しかし、これは青瓦台の本音がポロリと出た正気の沙汰に違いない。

ただし、王外相の言動批判は朝鮮日報だけ。中央日報は

「康長官は“(韓中関係に)多少あいまいな部分に対して改善・発展させることができる方針を深く協議することができてうれしい”と話した」

「今回の訪韓を契機に団体観光の制限など中国の制裁を緩和するための努力もあっただろうという見方がある」

と好意的だ。

東亜日報も、

文大統領は“今、韓半島の完全な非核化と恒久的平和の構築に向けたプロセスが重大な岐路を迎えている”とし“新しい韓半島時代が開かれるまで中国政府が持続的に関心を持って支援することを望む”と述べた。

と論評を交えず報じた。

ハンギョレは今回の王外相発言は淡々と報じただけだが、11月29日の社説では、邱国洪駐韓中国大使の韓国国会での28日の発言を次のように激しく非難した。

(邱大使は)「米国が韓国本土に中国を狙う戦略的兵器を配備すれば、いかなる禍を招くかは、皆さんも想像することができるだろう」と語ったという。「INF条約から脱退した米国が、韓国に中距離ミサイルの配備を要求する可能性が高い」という参加議員の発言に対して返答する形式だったというが、外交使節が駐在国でこのような形の脅迫性発言をしても良いものなのか。この上なく不快だ。

「韓国政府は十分に政治的知恵を持っているので、うまく対応できると信じる」とも述べた。外交官が駐在国を相手に「脅して慰める」発言をするのを韓国国民がどう見るのか。いくら自国の「安保上の憂慮」が重要であるとしても、その問題を周辺国に伝達して理解を求める方式には、守らなければならない外交規範があり、越えてはならない線があるものだ。

小中華の国柄だけあって、たとえ相手が中国であろうと、否、むしろ中国だからこそここまで侮られれば、カッと頭に血が上る民族性が顔を出してしまうのだろう。

それにしても不可解なのは一連の報道が、今回の外相会談で先の「日韓GSOMIA破棄撤回」という韓国の「一人芝居」についての言及の有無に全く触れていないことだ。日米韓の同盟を弱体化する「破棄」が中国には好ましく、その「撤回」はTHAAD導入並みに許し難いに違いない。

とすれば、王外相がこれに触れずに黙っていたとはとても思われない。が、触れたとしても韓国は「GSOMIA最終解決は日本政府の態度にかかっている」との従来主張を繰り返すだろう。つまり、未だ「撤回」と決まった訳でない、と姑息に言い逃れるということ。

今回、韓国は王外相に習主席の早期訪韓を要請したとも報じられる。文政権下でのこのところの中韓接近ぶりと反日・反米ぶりに、筆者は日清戦争前夜の頃をつい想起してしまう。中国の相手が今は日本だけでなく日米同盟であるのだが、韓国の事大主義だけは相変わらずであるからだ。

自ら年末に線を引いてしまった金正恩がトランプに再びロケットマン呼ばわりされた北朝鮮のことも含め、南北朝鮮とそれを挟んだ米中の目下の状況を、日本はより一層深刻に受け止めてあらゆる事態に備えねばなるまい。

高橋 克己 在野の近現代史研究家
メーカー在職中は海外展開やM&Aなどを担当。台湾勤務中に日本統治時代の遺骨を納めた慰霊塔や日本人学校の移転問題に関わったのを機にライフワークとして東アジア近現代史を研究している。