目に見えていた失敗
何を今さらやっているのだろう。
世間を騒がせている大学入試改革の報道を目にするにつけ、そんな感覚を抱いてしまいます。明白な欠陥を抱えた改革案を世に出してしまった与党はもちろんのこと、そんなものを今の今まで放置してきた野党にも落胆してしまいます。
私は、2017年11月に『だから、2020年大学入試改革は失敗する(共栄書房)』という本を上梓しました。学習塾を経営する立場からすると、改革案があまりに荒唐無稽に思えたためです。
現在、頻繁に報道されている入試改革の問題点は、改革案を目にすれば誰にでも分かるものです。もちろん、そうした問題点を指摘することも重要だと思いますが、もっと根本的な問題は別のところにあります。
連戦連敗の入試改革
まず確認したいことが、「知識偏重の入試をどうにかしよう」とする主張は、戦前から幾度となく叫ばれてきたという歴史についてです。今回の入試改革でも、知識偏重の入試を是正したいという意図が見られたように、知識偏重の是正は入試改革の悲願と言ってもよいでしょう。
しかし、これだけ毎回のように声が上がるということは、毎回のように是正できなかった、つまり失敗してきたということです。これだけトライしても解決できないのですから、よほど強力な法則なり構造的な理由があるのでしょう。
当然ながら、そんな法則・理由を解明するべく、十二分な時間をかける必要があります。が、不思議なことに、そうした検討が極めて不十分なまま入試改革案はできあがってしまいました。
審議会行政
文部科学省は、しばしば審議会行政と呼ばれるほど審議会の意見を重視します。結果、教育の非専門家である有識者の主張が、政策に強く反映される傾向があります。
教育は誰しもが経験をしている分野であり、多くの人々が一家言持っている分野でもあります。有識者ともなれば尚更でしょう。だから、非専門家だとしても、有意義で活発な議論が期待できそうに思えます。
ところが、皆が持論を持っているが故に、事前に十分な勉強なり下調べをすることなく、審議会に参加しているのではないかと疑念を持たざるを得ない状況が生じています。
今回の入試改革案ではマークシート型の試験が問題視されましたが、マークシートだろうが記述試験だろうが知識偏重に帰着してしまった改革の歴史を知れば、多大な労力と金を使ってまで記述試験の導入をしようとは思わなかったでしょう。
こうして、過去の失敗がきちんと検証されることなく、各々の時代において審議会が開催され、そして各々の時代で同じ過ちを繰り返すことで、入試改革は連戦連敗していくわけです。さらに言えば、審議会だけでなく政治家や経済界からの無責任な声が、時として強い影響力をもたらしてしまうことも、こうした失敗をもたらす一因です。
戦力の不均衡を是正すべき
改革を連戦連敗に追い込む原因は多岐にわたりますが、ここでは「戦力の不均衡」を取り上げたいと思います。戦力の不均等とは、入試問題を作成する側と、それを攻略する側の圧倒的なマンパワーの差を意味します。
問題作成側は、あまりに戦力が乏しいのみならず手足が縛られています。限られた人数の教授が忙しい合間を縫って業務にあたるのみならず、一定の出題範囲のなかで適正な平均点を目指すという制限のなかで作問する必要がありますから、どうしても出題傾向に偏りが生じるわけです。
一方、過当競争の真っただ中にある学習塾・予備校業界および進学校は、マンパワーは十二分です。しかも、作問する側に制限がある一方、攻略する側は些末なテクニックとしか言いようのないものを含めた、ありとあらゆる方法で攻略にかかるわけですから、両者の戦力が著しく不均衡であることは論を俟たないでしょう。作問側の戦力を拡充する必要性は明白です。
入試改革に関する新たな報道が出る度に、当塾の生徒や保護者は大変に困惑しています。これ以上の混乱をもたらさないよう騒動を早期に軟着陸させること。そして、審議会行政と呼ばれるような方法をやめ、過去の失敗を徹底的に検証することが必要ではないでしょうか。
物江 潤 学習塾代表・著述家
1985年福島県喜多方市生まれ。早大理工学部、東北電力株式会社、松下政経塾を経て明志学習塾を開業。著書に「ネトウヨとパヨク(新潮新書)」、「だから、2020年大学入試改革は失敗する(共栄書房)」など。