オーストリア社民党、解雇された“27人”党職員の救済策

当方はオーストリア社会民主党(SPO)の党員ではない。破産寸前の同党の現状を見て、何か救済案がないかを考えている、ちょっと変わった外国人ジャーナリストの一人に過ぎない。外国人だから変な繋がりや利害もないので、言いたいことを言える。その立場から以下、社民党連邦本部で働き、この度解雇通告を受けた党職員の救済案を紹介する。その案が実現性があるか否かは社民党自身が判断すべきことだ。

破産の危機にある社会民主党の連邦本部建物(社民党公式サイトから)

ウィーンにある社民党本部前に27人の党職員と彼らを支援する関係者が抗議デモをしているシーンが夜のニュース番組で放映されていた。27人は破産寸前となった党財政の救援策として党連邦本部から解雇通告を受けた職員だ(「政党が破産寸前に追い込まれる時」2019年11月29日参考)。

民間企業だったら「ああ、そうですか」で済むが、昔は「労働者の味方」を誇示し、「労働者の政党」として発展してきた政党だ。その政党が27人の労働者を解雇したのだ。それもタイミングが悪い。党本部から5分も歩くとウィーン市庁舎前にクリスマス市場が開かれている。家族連れでクリスマス市場を訪れ、プンシュ(リキュール)を飲み楽しむシーズンだ。その時、27人の党職員が解雇通告を受けたのだ。彼らは雇用主の社民党連邦本部前で抗議デモをしているわけだ。

社民党側にも理由はある。このままいくと党財政が破産してしまうのだ。その理由の一つとして、外部から専門家などを雇ったために、巨額の報酬を支払わなければならない。一件だけではない。数件あるのだ。

パメラ・レンディ=ワーグナー党首は「2020年半ばまでには顧問契約を破棄、ないしは延長しない」と表明している。当然だろう。選挙対策の専門家や党首個人のアドバイザーと顧問契約を締結しながら、州議会選、欧州議会選、そして連邦議会選、選挙という選挙はことごとく敗北したのだから。少なくとも、選挙に勝利するために外部から選挙対策のエキスパートを雇ったとしても効果がないことが実証されただけだ。

当方の救援策はシンプルだ。党連邦本部の総予算をパイとすれば、そのパイを連邦党職員の総数(102人)で割れば、1人当たりいくらの給料が支給可能かが分かる。もちろん、党首から事務局長、党役員から一般職員まで全ての総数で、連邦政党に入る政府補助金、党員の会費、一部企業からの献金を収入パイとして、そこから1年間の党活動資金、様々な雑費を差し引いた額を人件費に充て、それで割れば、党職員の平均給料が決定できるわけだ。

レンディ=ワーグナー党首を含む党幹部たちの給料は下がる一方、党公用車の運転手の給料は増える。これこそマルクス・エンゲルスが夢をみて描いたものの実現しなかった公平な「労働者の天国」が実現できるわけだ。

問題も出てくる。優秀で能力のある党幹部からは「こんな低い給料では働けない」と不満を言う者が出てくるだろう。労働者の天国を標榜する社民党に所属したが、実際は自身の願いを優先するような、優秀な党職員は社民党から出て、他の職場を探すかもしれない。一方、党幹部の中には低くなった給料でも社民党の理想を実現するために働きたい、という者も出てくるだろう。彼らを党の核にし、低迷する党の刷新に乗り出すのだ。

また、社民党には過去、縁故主義で党職員となった者も少なくない。能力からみて劣る職員もいるだろうし、必要以上に職員数が多い場合もある。定期的に職場の能率を上げる会議を開き、改善しなければならないことはいうまでもない。

以上の救援策は一定期間に限定される。党の財政が改善されれば、少しずつ能力主義を適応し、優秀な党職員はそれに相当する給料を得る道を提供する。社民党の場合、3年間の暫定期間だ。その期間中に党財政を健全化しなければならない。27人はこれまで通り党職員として働ける。もちろん、自主的に他の職場を探してもいい。

社民党の党刷新案がメディアに報じられれば、国民も驚くだろう。残って党のために働く職員は本当の社民党員だ。労働者の味方だ、といった声が出てくる。次期選挙ではこれまで以上の有権者の支持を得ることは間違いない。有権者は政治家の虚言やフェイクには飽きている。本当の政治家、政党を見たいのだ。

オーストラリアのメルボルン出身の哲学者、ペーター・シンガー氏を招き、「効率的な利他主義とは」の講義を受けるのもいいだろう。選挙に勝利するために高額の顧問料を払って選挙対策エキスパートを雇うより数段、効果があることは間違いない(「利口ならば人は利他的になる」2015年8月9日参考)。

社民党は本来「労働者の政党」だ。上から下まで社会の公平と正義の実現のために働くならば、その政党を支持しない国民はいない。社民党が低迷したのは党幹部がスイス製高級時計ローレックスをつけ高級車を乗り回し、離職すればロシア財閥の顧問となって高額の顧問料を得ている事実を有権者はよく見ているのだ。有権者を長く騙すことはできない。

社民党のライバル政党、クルツ党首が率いる国民党は明らかに経済界、大企業の利益を最優先する政策を行っている。社民党が低迷を脱するチャンスはある。労働者の生活改善のために、自ら犠牲をいとわない党員が集まれれば、来るなと言っても多くの国民が社民党を応援するだろう。社民党の救援策は極めてシンプルだ。労働者の味方を政治スローガンに終わらせるのではなく、それを党自らが実践することだ。共生共栄の社会実現の原動力となるべきだ。

ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年12月7日の記事に一部加筆。