先月ボリビアで起きた政変は、その1か月前に米国のネットに『Behind Back Doors』というタイトルで何が起きるか予測したレポートが掲載された。それがその後『Behindbackdoors wordpress.com don’t exsit』と表記されて、抹消されたのである(以下の動画を参照、9:18頃から)。
ところが、そこに紹介されたのとほぼ同じような展開でエボ・モラレスの政権が倒壊した。この政変をラテンアメリカの一部の国の政府はクーデターであったはと表明したがらない。なぜなら、それに関与していたからである。
このレポートの内容を、メキシコ自治大学の教授で国際政治の分析家として権威あるアルフレド・ハリフェ・ラウメ(Alfredo Jarife Rahme)が公にした。それが『kontrainfo』でも紹介されているが、その概要を以下に説明しよう。(参照:kontrainfo.com)
■
エボ・モラレス大統領の政権を倒壊させるプランは、もうかなり以前から米国で計画されていた。それを実行に移すのは大統領選挙後の2019年末から2020年3月まで、とレポートでは記載されている。ところが、実際にはこの選挙とほぼ同時に政変が発生することになった。
エボ・モラレスの倒壊を米国でプラニングしているグループには、ボリビアから次のような政治家が参画していた。元大統領のゴンサロ・サンチェス・デ・ロサダ、マンフレッド・レイェス・ビーリャ、マリオ・カシオ、カルロス・サンチェス・ベルサインなど。彼らはいずれも事情あって現在米国に在住している。
彼らはボリビアの退役した軍人ルムベルト・シレス将軍や他3人の大佐らが構成する「軍事協力会」と連携して、軍事面からの関係を保っていた。更に、ボリビアの反政府派として「国家民主同盟」と「平和市民委員会」のリーダーを始め、元大統領のフアン・カルロス・リベロやオンブスマンを歴任したロランド・ビリェナらとも連携していた。
彼らが米国から送られる資金を管理していた。それを大統領選挙前までに社会的危機を起こさせるために必要な資金として使用する為であった。野党にも勿論その資金が配られた。その狙いは軍部と政界に亀裂を起こして大統領に対抗する勢力の育成であった。大学、医師会、身体不自由者、環境保護者らも参加させて社会的不安を駆り立てることも計画された。
資金集めには在ボリビアの大使館や福音派の教会が、米国の主導のもとに協力した。ボリビアに赴任している米国国務省の官僚は、ブラジル、アルゼンチン、パラグアイといった国の高官と接触を重ね、社会不安をおこさせるための計画を練った。
■
最初のステージは、2019年4月から7月に実行するように仕組まれた。
先ず、反対勢力を一つにまとめるための政治連合の結成であった。それから反政府系のメディアや活動家さらに国際組織などからの政府への批判も加えて、モラレス政権への信頼を失墜させるようさせた。ラウル・レイェス・リベリロが担当して、ネットを利用してのフェイクニュースも発信。
反対派で元大統領のホルヘ・キロガが、米州機構(OEA)や欧州連合(EU)などに働きかけて味方につけ、モラレスが大統領選挙で勝利してもそれは非合法だとの反応を示すようにさせる。
モラレスがひとつ大きな過ちを犯したのは、電子情報紙『LA COSA AQUELLA』で示されているが、選挙結果に不正があったかどうかをOEAに打診したことであった。OEAはもともと米国の意向に沿う活動をしているということに、不注意にも彼は気づかなかったようだ。
案の定、OEAは最初は開票結果を認めたが、その後それを否定し、再度選挙のやり直しを勧めた。(参照:kenzocaspi.wordpress.com)
■
二番目のステージは、7月から10月まで社会を不安に陥れるために仕組まれたストライキの実行など。
平和市民委員会のリーダーのフアン・フローレスが中心となって、時に暴力やバリケードを設けての抗議活動を実行させ、それに学生を始め医師や一般住民も参加。軍隊と警察も協力して、全国レベルで暴動化させる。
理想は、全国レベルで麻痺させて選挙を無効にさせる。そのように導くために、9月20日に全国レベルで抗議デモ、同様に26日は首都ラパスにおいて、10月4日はサンタ・クルスとラパスでそれを実行する。
更なる目的として、軍部と警察に亀裂を生じさせる。このような過程を経て現在の軍部の指揮層がこの政変に加わってくれることを期待するものとした。
実際、このプランに加わることになった大統領に近い士官グループもいることから、大統領に誤った情報を提供することも可能となった。
■
そして最終ステージ。
10月20日の選挙でモラレス大統領が勝利すると思われる。それを鑑みて、米国大使館は選挙が不正に行われたという理由付けを秘密裏に練る。
選挙は非合法で不正があったとするために、ブラジル、アルゼンチン、パラグアイ、コロンビア、スペイン、エクアドル、英国、チリのそれぞれ高官を説得して、米国ではなく、これらの国から選挙に不正があったということを表明することで合意した。米国がそれをすれば、米国が仕掛けたものだということを証明するようになるからである。
選挙最高裁もその不正を告発すべき書類の整理に入った。
これらのステージと併行して、7月に「平和市民委員会」のメンバーが集まって、投票の集計をよりスピーディーに実行できる機械を大統領選挙の時に採用することを決めた。この機械は30万ドル(3200万円)するものであった。
米国大使館とEUがこの購入に融資の形で協力し、創聖基金と福音教会基金を介してそれを提供するものとした。その為に協賛金として実際には80万ドル(8600万円)が集まった。それで選挙の票を数える人たちにも報酬を支払うことができる。それをそれぞれ選挙区に配置するとした。
票数の最終集計が発表された時点でそれに不満を表明するための暴力化した抗議の実施も予定に組まれた。また、在ボリビア米国大使館が費用を負担して投票前日に無期限ストも計画。
10月20日の選挙でエボ・モラレスが勝利した場合は、民間と軍による臨時政府が設置されて、投票に不正があったとしてモラレスの勝利を認めないこととする。それを正当化させるため、治安が不安になっている状態を想定させるように、「軍事協力会」と「市民委員会」が中心になって背後から2つの都市サンタ・クルスとラパスを中心に大規模に暴動化させる。「軍事協力会」にはサンタ・クルスの「退役軍人連盟」が支援する。
マイアミからチリのイキケ港に向けて、もしやのことも考慮し米国は武器を積んだ船を仕向ける。
■
以上が、抹消された『Behind Back Doors』で説明されていたクーデターを起こすための概要である。
結局、民間と軍による政府の樹立を待つことなくモラレスは再選挙を実施すると発表し、そのあと亡命した。
選挙の不正について票集計の機械を導入したことによって、その票数をハッカーで操作できるとした。その点にOEAの専門家は不正を指摘したようである。
メキシコ以外の他のラテンアメリカの国々でクーデターが起きたことを表明しなかったのは、今回の米国のプランに何らかの形で関与していたからである。モラレス大統領がメキシコに亡命する際に彼ら一行が搭乗したメキシコの軍用機が通過するそれぞれの国が空路を許可しなかったのも、このクーデターに間接的に関与していたからだ。
米国に遠慮して上空を通過することを許可しなかったか、あるいは許可を出すにも(米国の意向を打診するため)時間を要したのである。
—
白石 和幸
貿易コンサルタント、国際政治外交研究家