大企業の国有化から逃げる最近の日本共産党

加藤 成一

共産党のいう「生産手段の社会化」とは何か

日本共産党は、党綱領で、「社会主義日本では主要な生産手段を社会化し、計画性と市場経済とを結合させた経済運営を行う」とし、「生産手段の社会化とは、主要な生産手段の所有、管理、運営を社会の手に移すことである」(注1)と規定している。2019年11月5日第8回中央委員会総会で承認された「日本共産党綱領一部改定案」でも、上記の点の改定はない。

歴代の日本共産党最高指導部は、「生産手段の社会化」とは、具体的には「金融機関と重要産業の国有化」(注2)、「大企業の国有化」(注3)、「すべての重要産業、すべての銀行の国有化」(注4)である、と明確に述べている。

2019参院選共産党公約より

マルクス、エンゲルス、レーニンの概念

マルクスも、「生産手段の社会化」とは、「生産手段の共有である」(注5)と言い、エンゲルスも「生産手段の国有化である」(注6)と言い、レーニンも「銀行の国有化と巨大独占団体(重要産業)の国有化である」(注7)と明確に述べている。

上記の、歴代の日本共産党最高指導部や、マルクス、エンゲルス、レーニンによれば、「生産手段の社会化」とは、大企業や銀行の「国有化」を意味することが明らかである。

トヨタ、ソニー、三井住友、ソフトバンクなど大企業国有化

「生産手段の社会化」が上記の概念であれば、社会主義日本では、当然、トヨタ、ソニー・三井住友・ユニクロ・JR東海・ソフトバンクなどの、日本を代表する東証1部上場の大企業は「国有化」されることになる。

ところが、最近の共産党は、社会主義日本における「大企業の国有化」について曖昧であり、「生産者が主役の社会主義」を目指すなどと言っている(注1)。これは極めて抽象的であり、且つ極めて曖昧である。最近の共産党は「大企業の国有化」から逃げていると言う他ない。

社会主義日本の「青写真」を示さない共産党

日本共産党は、従前から、「革命の手足を縛らないため」社会主義日本の「青写真」を示さず(注8)、また、重要な用語を変更してきた。国民を恐怖させる「暴力革命」を否定しない「敵の出方論」の容認(注9)(注10)や、国民に恐怖心を与える「プロレタリアート独裁」の容認(注11)(注12)から「プロレタリアート執権」(注13)への用語変更などもそうである。

同様に、トヨタ・ソニー・三井住友・ユニクロ・JR東海・ソフトバンクなどの「大企業の国有化」は、日本国民の大多数は到底支持しない。そのため、共産党は、その用語を避け、「生産者が主役の社会主義」という極めて抽象的且つ極めて曖昧な用語を「カムフラージュ」として使用している。社会主義日本における「生産者が主役の社会主義」なるものは、具体的実質的には「大企業の国有化」に他ならない。

なぜなら、前記の通り、歴代の日本共産党最高指導部は、いずれも、「生産手段の社会化」とは大企業や銀行の国有化であると明確に述べており、マルクス、エンゲルス、レーニンも全く同じであり、「生産手段の社会化」即ち「大企業の国有化」は、社会主義の極めて重要なメルクマールだからである。

共産党による「大企業の国有化」は何をもたらすか

日本共産党による、トヨタ・ソニー・三井住友・ユニクロ・JR東海・ソフトバンクなどの「大企業の国有化」の目的は計画経済である。

しかし、旧ソ連において実施された計画経済では、国有企業の管理者は、国有財産の共同所有者であり特権階級である共産党官僚や国家官僚(ノーメンクラツーラ)である(注14)。そして、基本的にはソ連国家計画委員会(「ゴスプラン」)の指令に基づき生産・流通・消費が行われ、国有企業間および外国企業との「競争原理」が働かないため、非効率、技術革新の遅れ、低労働生産性、低成長、国際競争力の低下をもたらした(注15)

上記理由による旧ソ連計画経済の崩壊、旧西ドイツと旧東ドイツ、韓国と北朝鮮の膨大な経済格差の発生は、「生産手段の社会化」即ち「大企業の国有化」による計画経済の重大な欠陥を証明している。日本共産党は市場経済の導入も主張するが、基本はあくまでも「大企業の国有化」による「社会主義計画経済」である。

「大企業の国有化」は日本経済を破綻させる

以上に述べた通り、日本共産党が狙う「生産手段の社会化」即ち、トヨタ・ソニー・三井住友・ユニクロ・JR東海・ソフトバンクなどの「大企業の国有化」による計画経済は、旧ソ連計画経済と同様に、日本経済を破綻させる危険性が極めて大きく、国民生活にとって重大な事態をもたらすであろう。

すなわち、計画経済では、国有企業間および外国企業との「競争原理」が働かないため、非効率、技術革新の遅れ、低生産性、マイナス成長、国際競争力低下、経常収支赤字、企業業績悪化、倒産、失業、賃金低下、税収減少、社会保障予算削減、年金破綻など、日本経済を根本的に破綻させ、深刻な事態に陥りかねない。

よって、共産党が狙う「生産手段の社会化」即ち「大企業の国有化」については、日本国民には特に慎重で冷静な判断が求められるのである(2019年9月26日付け「アゴラ」掲載拙稿「日本共産党は日本の大企業を国有化するつもりか」参照)。

加藤 成一(かとう  せいいち)元弁護士(弁護士資格保有者)
神戸大学法学部卒業。司法試験及び国家公務員採用上級甲種法律職試験合格。最高裁判所司法研修所司法修習生終了。元日本弁護士連合会代議員。弁護士実務経験30年。ライフワークは外交安全保障研究。

(注1) 日本共産党綱領五=15・16
(注2) 宮本顕治著「日本革命の展望」203頁1966年日本共産党中央委員会出版部
(注3) 不破哲三著「続・科学的社会主義研究」190頁1979年新日本出版社
(注4) 上田耕一郎著「先進国革命の理論」287頁1973年大月書店
(注5) マルクス著「ゴーダ綱領批判」世界思想教養全集11巻129頁昭和37年河出書房新社
(注6) エンゲルス著「空想から科学へ」世界思想教養全集11巻194頁昭和37年河出書房新社
(注7) レーニン著「さしせまる破局、それとどう闘うか」レーニン全集25巻354頁1957年大月書店
(注8) 不破哲三著「科学的社会主義の運動論」41頁以下1993年新日本出版社
(注9) 宮本顕治著「日本革命の展望」315頁
(注10)不破哲三著「人民的議会主義」244頁1970新日本出版社
(注11)宮本顕治著「日本革命の展望」218頁~219頁
(注12)不破哲三著「人民的議会主義」241頁
(注13)日本共産党中央委員会著「日本共産党の70年(上)」415頁1994年新日本出版社
(注14)ミハイル・S・ボスレンスキー著「ノーメンクラツーラ」134頁以下、183頁昭和56年中央公論社
(注15)木村汎ほか著「ソビエト研究」174頁1985年教育社