第200臨時国会は9日閉幕した。野党による内閣不信任案提出が、解散総選挙の引き金になる可能性も含めて、会期末最大の焦点のはずだったが、与野党国対政治の馴れ合い交渉の結果、閉会中審査で「桜を見る会」問題について話し合うことを条件に、不信任案提出は見送られた。このニュースを聞いた時点で「八百長」の3文字が脳裏に浮かんだ。
「戦闘体制」でないのに政権打倒とすごむ野党の欺瞞
「桜」で安倍政権を散らすつもりの意気込みで連日わめきちらしていたのはなんだったのか。結局、立民と国民(あるいは社民も含めた)の合流に目処が立たず、いま解散総選挙に突入したら勝ち切る自信がないからではないか。
そもそもこの両党が本気で政権を取る気がないのは、全国の衆院選挙区の支部長空白地域がいまだに多いことからも明白だ。たとえば妻・河井あんり氏の選挙違反疑惑で、法相を辞任した河井克行氏の広島3区。いまこそ千載一遇の好機というのに、国民民主党時代の塩村あやか氏がバックれたあと、立民も国民も支部長が確定していない。いや、それどころか立民に至っては広島県内7区の支部長が誰もいないようだ(9日現在、党サイト参照)。このことをひとつ取ってみても、枝野代表が口に出す「政権交代」など妄想だ。
いや、本人たちの妄想だけならまだよい。院外の国民に対しては威勢の良いことをいい、院内の国対政治で取引をする。閉会中審査での「桜」追及は内閣委員会が舞台になるが、当初から内閣委でやるべきという意見に耳をかさず、関係性の低い予算委での追及に血道を上げていた。
だったらなぜ最初から内閣委でやらないのか?予算委のテレビ中継目当てだということくらい、ネットをやる国民は気づいている。本気で政権交代を狙う野党支持者がいるのであれば、この詐欺的なパフォーマンスに怒らずしていつ怒るのだ。
ネットの自民支持層の離反に拍車
与党も与党だ。原英史さんから報告があったとおり、森ゆうこ氏の懲罰請願は「保留」扱い。このまま審査未了となり、参考資料として一緒に提出された66,624名の皆さんの署名ともども封殺されることに決まった。
すでに前回の記事を書いて以来、大なり小なり安倍政権を支持してきた人たちも愛想を尽かしはじめている。特に保守層の失望は予想外に大きい。「安倍総理は信じているが、森山国対委員長は許せない」と、自分に言い聞かせるように一縷の望みを首相にかける者も散見されるが、森山氏が官邸の制御外で動くことはありえず、彼らが現実を受け入れて冷めるのも時間の問題だろう。
安倍政権と自民党への不信感は募るばかりだ。たとえばこんな感想も寄せられている。懲罰請願を国対の取引材料にされたとの見方も強い。
国対政治?なにそれ?知らないやつがバカなの?ウラ取引してるってこと?裏取引で自民党はおれたち6万人の署名より森ゆうこ守ったってこと?八百長?おれたちの署名がなんかのウラ取引に使われたってこと?
日本維新の会以外の政党が民間人を犠牲にすると言うことが理解出来ました。野党が野党なら与党も与党ですよ。
怒ってます😤森ゆうこ議員にも、桜の野党にも、何もしない自民党にも💢
自民党や官邸、政治家に意見を送ったのも初めてです。国会議員がこんなにも無責任だったとは…無力感でいっぱいです。これからは政治を注視し、次の選挙では、明確な意思を持って投票します。
なによりも保守層に影響力のある門田隆将さんが会期末もこう喝破。官邸も自民の関係者も門田さんへのリプをみてみるといい。
やり場のない「絶望」
ネット選挙解禁から7年、政治のネット世論を観測してきたが、こんなことは初めての経験だ。ネットの保守層と安倍自民の信頼関係にヒビを入れた点では、森ゆうこ氏のモンスターぶりはそれだけメガトン級だったのかもしれない(同時に野党側のイメージ悪化も炸裂したが)。しかし、笑いごとではない。いまの野党にとても政権を託せるものではない。
それでも、官邸や自民執行部は「ほかに選択肢がないから」「年が明ければ忘れるさ」とタカを括っているのだろう(いまも)。もちろんいまの与野党の戦力差からして、自公で過半数を割ることはあるまいが、今回私のツイッターにコメントしてきた人たちは、地方在住の人たちが予想より多かった。
彼らは野党には入れたくない。しかし、安倍政権に「一度はお灸を吸えておくか」となると投票に行かない選択をする可能性はある。自民が参院選で苦戦した東北などの激戦区は、いま選挙をしたらどうなるのだろうか。
この政治全体の体たらく。臨時国会の最中にも香港情勢が緊迫し、北朝鮮もまた不穏な動きを見せている。ノーベル賞の受賞者は輩出できたが、大学入試の記述式延期検討のタイミングで、OECD生徒の学習到達度調査(PISA2018)で読解力の大幅低下が露見した。数字上は“戦後最長”の景気もピークアウトし、実質賃金は下がるばかりで庶民の生活は苦しい。
森氏の問題で浮き彫りになった我が国の頭脳たる霞が関のブラック労働は放置されたまま。最後は、党利党略に明け暮れて人権救済もされない….自衛に必要な最小限の軍備しか持たず、石油がなくても人材が資源の我が国は不景気にも突入しつつあり、実は危機的だ。それでも国会はから騒ぎに終始する。これほど政治に絶望したくなった1年は記憶にない。
安倍政権だけでなく政治全体の問題として言うが、大学入試ごときまともに改革できないのに、憲法改正などできるのだろうか。
参院選直後、三浦瑠麗氏がれいわとN国の躍進について、停滞の絶望感の中での「ガス抜き」を背景に挙げていたが(irrona 7月22日)、そうした諦念が与党支持層をも包み込もうとしているのかもしれない。
子どもの頃から政治ニュースは好きな方で、いまは政治の世界に仕事として関わっている私ですらサジを投げたい。ここ数日、政治ニュースを熱心にみている中道〜保守の人たちも失望の声でネットは溢れかえっている。これもかつてない経験だ。政治に関心が薄く冷めた目で見ている多数派の国民は言わずもがなだ。皆、やり場のない失望…いや絶望感を抱きつつある。
最後に:森氏懲罰請願の賛同人として
この臨時国会では、末席ながら思わぬ形で政局の“当事者”になったが、原英史さんは最後の最後まで諦めず、本会議での請願上程に向け、20人の議員確保に走っていた。維新の16人に加え、みんなの党会派の渡辺喜美氏と浜田聡氏が賛意を表明。あと一歩だったが、力及ばなかった。
今回の請願は、維新の浅田均政調会長のご尽力なしには実現できなかった。期間中は、アゴラでもおなじみの足立康史議員、音喜多駿議員、柳ヶ瀬裕文議員をはじめ、維新の皆さんのネット発信が世論形成に大きく寄与した。心より感謝いたします。
また、自民党への失望は原さんと同じだが、党内の事なかれ主義の風圧にもめげず、塩崎恭久議員、小林史明議員、長尾たかし議員がネット上で公然と請願支持を表明してくださった。ネット番組でギリギリの言及をされた青山繁晴議員、そして、小野田紀美議員、山田宏議員をはじめ、水面下で動いていただいた。皆様の勇気と熱意に敬意を表したいと思う。
そして何よりも、6万7千人を超える多くの方々の署名、広告費のご寄付には言葉で言い表せないほどの感謝の思いで胸がいっぱいです。皆さまの怒り、政治をよくしたいという思い。絶対に今後に生かしたい、いや生かさなければなりません。力不足を心からお詫びします。そして、ありがとうございました。
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新田 哲史 アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長
読売新聞記者、PR会社を経て2013年独立。大手から中小企業、政党、政治家の広報PRプロジェクトに参画。2015年秋、アゴラ編集長に就任。著書に『蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?』(ワニブックス)など。Twitter「@TetsuNitta」