すでに有識者のSNSで話題となっており、出遅れ感は否めないエントリーではありますが、12月6日、証券取引等監視委員会(SESC)が日本フォームサービス社の有価証券報告書等に虚偽記載があったとして、同社への課徴金納付命令を勧告しています。
なにが「話題」かといいますと、おそらく課徴金勧告として初めてとなる「ガバナンスの状況」に関する虚偽記載を認定している点です。
本日、監視委員会で勤務経験のある某会計士の方とお話をしていて「SESCがガバナンスの整備ではなく、運用面に注目するようになった画期的な判断」とおっしゃっていましたが、私も同感です。認定された「ガバナンスの虚偽報告」の一部をご紹介しますと…
「取締役会は有価証券報告書提出日現在、3名の取締役で構成され、原則月1回開催の定例の取締役会を開催し、重要事項はすべて付議され、業績の進捗についても議論し、対策を検討しております。」と記載していたが、当社は、取締役会を年3回しか開催しておらず、また、取締役会において重要事項の大部分が付議されていなかった
当社の監査役は、「取締役会をはじめ、経営会議、開発会議等の重要な会議に出席し、取締役の業務執行について厳正な監査を行っております」と記載していたが、常勤監査役は、これらの会議に出席してはいるものの、取締役の業務執行に関して何ら監査していないなど、当社の監査役は厳正な監査を行っていなかった
当社が実施している内部統制システムの内容について「コンプライアンス担当取締役を任命し、監査室を設け全社のコンプライアンスの取組みを横断的に統括することとし、同部を中心に役職員教育を行う。監査室は、コンプライアンスの状況を監査する。これらの活動は定期的に取締役会及び監査役に報告されるものとする。」と記載していたが、当社は、コンプライアンス担当取締役を任命したことはなく、また、監査室も業務分掌規程で規定したのみで実体がなかった
なるほど…ん?しかし、このような虚偽記載は(通常であれば)会計監査人から指摘されるのでは?と思っておりましたら、虚偽記載がなされた当時の監査法人さんも処分勧告を受けておられるようです。
私の内部告発代理人の経験からしますと、このように「ガバナンスの虚偽報告」が課徴金勧告の対象となるのであれば、当局や会計監査人への情報提供はかなり容易になりますね。間違いなく「真実相当性」の要件を満たす事案が増えることにより、公益通報者保護法上も内部告発(第三者への通報)が保護される可能性が高まります。
もちろん日本フォームサービス社への勧告では、ガバナンスの虚偽報告だけでなく、他の不適切な会計処理についても根拠とされていますが、強制調査の端緒にはなりうるでしょうから、不適切な会計処理に関する証憑が不十分なケースでも、ガバナンスの虚偽記載に関する証憑さえ揃えれば内部告発が受理される可能性も高くなると思われます。
さあ、ここまで来たら、次は「内部統制報告書の虚偽記載」による課徴金勧告ですよね。ここ数年、J-SOX実務の見直しに関する議論が高まってきましたが、実効性を高めるためには「抜かずの宝刀」(内部統制報告書の虚偽記載による刑事罰、民事賠償責任)を活用するとともに、内部統制報告書の虚偽記載に行政処分(課徴金処分)に関する規定を創設する時期に来ているのではないでしょうか。
「ガバナンスの虚偽記載」に課徴金処分が活用される時代になったのですから、ぜひとも当局の皆様にはご検討いただきたいところです。
山口 利昭 山口利昭法律事務所代表弁護士
大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(1990年登録 42期)。IPO支援、内部統制システム構築支援、企業会計関連、コンプライアンス体制整備、不正検査業務、独立第三者委員会委員、社外取締役、社外監査役、内部通報制度における外部窓口業務など数々の企業法務を手がける。ニッセンホールディングス、大東建託株式会社、大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社の社外監査役を歴任。大阪メトロ(大阪市高速電気軌道株式会社)社外監査役(2018年4月~)。事務所HP
編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2019年12月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。