今年の良書ベスト10

池田 信夫

今年は不作だった。世界情勢は意外に平穏で、経済もゆるやかに停滞しているので、話題になる出来事も少なかった。そんな中で、日本では韓国との紛争が再燃し、歴史をあらためて考えるきっかけになった。

  1. 韓国「反日主義」の起源
  2. 「追われる国」の経済学
  3. 大分断
  4. 反日種族主義
  5. Becoming Human
  6. 平成金融史
  7. Evolution or Revolution?
  8. イスラム2.0
  9. 腐敗と格差の中国史
  10. 父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。

韓国についての本は山ほど出たが、中立的に歴史を検証した本はほとんどない。その中で1は、一次資料にもとづいて植民地支配の実態を実証的に明らかにしている。日本の朝鮮支配は朝鮮を同化させる家父長主義で、当時の朝鮮人エリートのほとんどは「親日派」だった。その歴史を戦後の軍事政権が隠蔽したことが、ゆがんだ反日主義の原因になった。

4はそれを韓国人が論じたもので、同じく反日感情が政治的につくられたことを明らかにしている。それは歴史的に民族としてのアイデンティティをもつことができなかった韓国人を政治的に一体化させるイデオロギーだが、歴史的事実を大きく歪曲しているため、長期的に維持することは困難だろう。

経済では、長期停滞をどうみるかについて経済学者の意見がわかれている。2は貯蓄過剰論の元祖で、かつてはバカにされていたが、今は世界の主流派にも認められている。ただマクロ経済学の常識では、貯蓄過剰(投資不足)が20年以上も続くことはありえないので、その構造的な原因は何かが問題になる。2はグローバル化だとしているが、3は資本主義の成熟が原因だとする。

7は長期停滞についてのさまざまな見方を集めた論文集だが専門的。10は「政府がバラマキで経済を救える」と主張する「反緊縮」運動のパンフレットで、日本には当てはまらないが、それほどバカにしたものではない。今年たくさん出たMMTについての本を読むより、これを読んだほうがいい。