いまの仕事は政府との調整案件が多いため、県庁のある福島市から東京にしばしば出張しています。東京までは新幹線だと約1時間半で、とても近く感じます。
先日も東京へ向けて新幹線で移動していたところ、郡山駅から若者が乗ってきて、隣の席に座り、フランクに話しかけてきました(こちらはスーツ姿で書類に目を通していたのですが…)。聞くとルーマニア人のシステムエンジニアで、休暇を使って日本各地を訪ねる中で会津にも立ち寄ったそうです。「新幹線はすごい、最高速度はどれぐらい出るのか」とか、「日本の男女はどのようなアプリで出会っているのか」とか…、しばらく他愛もない話題につきあうことになりました。
その後、おまえの職業は何なのかというので、福島県庁で働いているのだと教えると、「福島は安全なのか」、「入っても大丈夫なのか」と聞かれたので、今年読んだ良著『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』(ハンス・ロスリング著)にならって、三択クイズを出してみることにしました。
問題 2019年11月現在、福島県全体の中で避難指示区域は何%でしょう。
(A)約50%、(B)約12.5%、(C)約2.5%
彼はAを選びましたが、正しくはCです。ちなみに原発事故直後はBでした。除染や放射線量の低減により、徐々に避難指示が解除されてきているのです。原子力災害からの復興の途上にある福島については、思い込みから解放するファクトフルネス(事実や数字に基づくものの見方)が極めて重要です。特に海外では原発事故があったことは皆知っていても、情報がアップデートされていないことが多いのです。
彼に「あなたが観光してきた会津や、新幹線に乗車してきた郡山も福島県ですよ」と教えると、知らなかったとのこと。ただ福島が大変気に入ったようで、「必ずまだ来る」と言って東京駅で別れました。
これはひとつの出会いにすぎませんが、以下ではいくつかファクトデータをご紹介します。福島県における外国人宿泊者数は、震災直後に激減し、年々回復し、震災前の162.2%にもなっています。しかし、この間に日本全国では321.1%にもなっていることからすると、未だ十分とはいえません。
【外国人宿泊者数(出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」及び福島県観光交流課調査)】
本年11月、三菱総合研究所が東京都民1000人に対して行ったインターネット調査(2019年実施)の結果が公表されました。
福島県への旅行について、「自分が訪問する場合」に放射線が気になるのでためらうと答えるのは23.8%(一昨年28.0%)であり、「家族、子どもが訪問する場合」に放射線が気になるのでためらう、が30.7%(一昨年36.9%)となっています。
前回調査と比較して改善もみられる一方で、福島県への訪問に不安を持っている方が一定数いることが確認できます。自分が訪問する場合よりも、家族、子どもが訪問する場合の方が、ためらうとするポイントが高いこともわかります。
次に学校の教育旅行で福島県を訪れる子どもの数です。原発事故後に激減しましたが、関係者の努力で改善し、人数ベースで震災前の72.9%まで回復してきましたが、未だ震災前と同水準には及びません。
【福島県への教育旅行延べ宿泊者数(出典:福島県教育旅行入込調査報告書)】
さて、いくつかデータを見ていただきましたが、最後にふたば未来学園高校の取組を紹介します。
原発事故の影響で休校となった5つの高校の精神を受け継ぎ2015年に新設された県立ふたば未来学園高校では、原発事故後の地域における課題解決を目指す探究型の学びを実践しています。3年生の渡辺美友さんは、休暇で地元の白河市に戻った際に感じた偏見から、同じ県内なのに双葉郡のことが正しく知られていないことに課題意識を持ちました。
本稿では外国人宿泊者数や東京の意識調査等を紹介してきましたが、渡辺さんが気付いたとおり、無理解や風評の芽は国外や県外にだけでなく、県内の足元にもあるということです。
渡辺さんは、意識の差の解消などを目指して、県内外の高校生が互いの地域を訪問しあう「地域交換留学」を企画・実践しています。フィールドワーク、ホームステイ、未来予測データを活用したディスカッションなどを組み合わせたプログラムで、資金調達・参加校募集等も生徒自ら実施しています。机上の学びに終わらせず、実際の地域課題解決に向けたアクションまでつなげていることが、渡辺さんやふたば未来学園の学びの果敢なところだと思います。
福島県は風化と風評という2つの「風」と戦っています。この2つの風は、ときに関係し、また気まぐれに吹きます。風評を招かないためには、風化してしまえばいいという考え方もあります。現にルーマニアの青年も知らずに福島県に来ていました。
ただ、本当の理解に近づき、リピーターや応援団になっていただくことを目指すなら、いいところも悪いところも、復興が進んでいるところも進んでいないところも、光も影も、両方をファクトで伝えていくことが大事だと考えます。そして、やはり百聞は一見にしかずであって、渡辺さんの地域交換留学のように、来て、見て、感じてもらうことが最も重要とも思います。
この度の台風により、自粛ムードなどによる誘客面での影響も県内全域に及んでいると分析しています。来年は東京オリンピック(福島市が野球・ソフトボールの競技会場になります)や、連続テレビ小説「エール」(福島出身の作曲家・古関裕而がモデル)の放送も控えていますので、このチャンスも活かして、現在の福島を国内外にPRできればと思っています。新年はぜひ福島へ。皆様のお越しを心よりお待ちしています。
高橋 洋平(たかはし ようへい)福島県企画調整部企画調整課長
2005年文部科学省に入省。カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、私学助成課課長補佐などを経て、2016年より福島県に出向し、教育総務課長として教育の復興などを担当。2019年から現職で、県政全般の内外調整を担う。