伊藤詩織さんの民事訴訟での判決が出た後、SNS上で左派と右派の場外乱闘が至るところで起こっている。この種の事件がここまで政治イデオロギー対立と連動するというのは、目を見張る状況だ。
私はここ数年で憲法学の陥穽を批判する文章を多々書いている。憲法学「通説」派は、左派の牙城のようなものである。とすれば、それを批判している私は右派かと言うと、もちろんそんなことはない。しかも当たり前のことだが、憲法学「通説」批判をすることは、伊藤詩織さんを批判することや、山口敬之氏を擁護することとは、全然関係がない。
正直、今回の民事訴訟判決の後の山口氏の発言は、かなりヤバい。山口氏は言った。
「本当に性被害にあった方は『伊藤さんが本当のことを言っていない。それから例えばこういう記者会見の場で笑ったり、上を見たりテレビに出演して、あのような表情をすることは絶対ない』と証言してくださったんですね」
性被害を受けた人物は陰鬱になるべきであり、沈黙しているのが当然である、という世界観を披露した山口氏の発言は、かなりヤバい。多くの人々が、そう感じていると思うが、私もそう感じる。
ただし、それでも執拗に山口氏を擁護する人々がいる。その人たちは伊藤詩織氏が左派系の人物たちと付き合っていることを問題視している。これは意味不明である。
政治イデオロギー闘争を持ち込む必要がない場面で、政治イデオロギー闘争を持ち込むのは、ナンセンスだ。冷静になりたい。
篠田 英朗(しのだ ひであき)東京外国語大学総合国際学研究院教授
1968年生まれ。専門は国際関係論。早稲田大学卒業後、