韓国で日本語を追放したら代わりの言葉も日本語の喜劇

八幡 和郎

写真AC

日帝残滓を理由に「勤労」を「労働」に韓国自治体は言い換える運動を進めているという。しかし、残念ながら、労働の働という漢字は日本で生み出された国字だ。ご愁傷様としか言いようがない。

余談だが、朝鮮民主主義人民共和国も「民主主義」「人民」「共和国」と日本語三連発。金正恩の政党も朝鮮労働党だから日本語である。

「朝鮮日報」日本語版にソウル市・慶尚南道など韓国の一部自治体が、「日帝残滓(ざんし)をえぐり出す」として条例で「勤労」という言葉を一括して「労働」に変え、論争が起きているという記事が載っていた。

日帝残滓を理由に「勤労」を「労働」に言い換える韓国自治体(12月17日、リンク

慶尚南道議会は今月13日、「慶尚南道条例用語一括整備のため条例案」を議決した。同条例は、「勤労」という言葉を「労働」に変えることが骨子で、「勤労者」は「労働者」などに変更する。慶尚南道の関係者は「全国民主労働組合総連盟(民労総)など労組では、『勤労』ではなく『労働』に変えようと絶えず主張してきた」と語った。

ソウル市は既に今年3月、「勤労」を「労働」に変える条例一括改正案を公布し、計53本の条例を変更した。京畿、光州、全北、釜山などでもこうした政策が進められている。彼らが掲げる理由は「勤労という言葉は勤労挺身隊などに由来する日帝強占期の遺物」というものだ。だが『太祖実録』『世宗実録』など朝鮮王朝の実録でも「勤労」という言葉が使われている例があり、「勤労」という用語は日帝残滓とは見なし難いという意見も多い。

また例によって愚かなことである。これはいつも私が指摘しているように、朝鮮王国時代には、朝鮮語は書き言葉として成立していなかったのである。公文書はすべて中国語で書かれており、ハングルは両班の抵抗もあって普及せず補助的にしかつかわれていなかった。

井上角五郎(Wikipedia)

そこで、福沢諭吉門下の井上角五郎が、日本語を真似た漢字ハングル交じり文を提案し、日本から職人を呼び寄せてハングルの活字を創らせ、この漢字ハングル交じり文の官報を創始したのである。

この経緯からも分かる通り、書き言葉としての朝鮮語は、日本語の仮名部分をハングルに置き換えただけのようなもので、はたして独自の言語といえるかすら微妙なものだった。

また、ハングルの表記法も正式には定められておらず、朝鮮総督府が定めたものだし、ハングル教育も同様だ。そういう意味で、日本が韓国から「言語を奪った」と言うことは断じてない。

だから、今回のコメディーのようなことは不可避で、日帝残滓を排除するというなら、中国語でも英語でも非コリアン言語に置き換えるしかなさそうだ。

中国語についても日本語だらけであることはよく知られた通りだが、単語だけでなく、いいまわしでも、魯迅が白話運動を始めたときには、日本での言文一致運動の影響が濃厚なので、結果的に、かなり日本語チックなものになっているのだいう。


八幡 和郎
評論家、歴史作家、徳島文理大学教授