化石賞を有難がっているのは日本くらい

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有馬純 東京大学公共政策大学院教授

今回のCOP25でも化石賞が日本の紙面をにぎわした。その一例が12月12日の共同通信の記事である。

【マドリード=共同】世界の環境団体でつくる「気候行動ネットワーク」は11日、地球温暖化対策に消極的な国に贈る「化石賞」に日本とブラジルを選んだと発表した。小泉進次郎環境相が同日の第25回気候変動枠組み条約締約国会議(COP25)の演説で、脱石炭など意欲的な姿勢を示さなかったのが理由。2日に始まった会議で2回目の受賞となった。

化石賞は環境団体が各国の発言内容をチェックして、ほぼ毎日発表している。1回目は梶山弘志経済産業相が国内での会見で、石炭火力発電の利用を続ける方針を示したのが理由だが、今回COP25に参加した小泉氏も脱石炭触れなかったことで、改めて厳しい目が向けられた。

温暖化に歯止めがかからないとの危機感から世界では脱石炭の流れが決定的だが、日本は二酸化炭素を多く排出する石炭火力発電を推進。発展途上国での建設に多額の公的融資を続けている。

(略)

小泉氏は演説で、日本の石炭政策に関し「世界的な批判は認識している。今以上の行動が必要だ」と述べたが、脱石炭にかじを切ることは表明しなかった。その後の会見などでは「途上国への輸出は何とかしたいと思ったが、新たな見解を出せなかった。今後も引き続き議論していく」とコメント。「(化石賞を)さらに貰う可能性があると思っていた。驚きはない」と述べた。

この記事を読んで「日本のマスメディアの自虐趣味は病膏肓だな」と思った。筆者は経産省で交渉官をやっているとき、化石賞を何度と無く受けた。特に2010年のCOP16で首席交渉官として「日本はいかなる条件、状況の下でも京都議定書第二約束期間に参加しない」と表明したときは、翌日の化石賞の1位から3位までを独占受賞したくらいである。

しかし筆者は化石賞をもらって不名誉だと思ったり、凹んだことは一度も無い。むしろ国益のために闘っている証左であり、勲章であるとすら思っていた。

外務省気候変動課の公式ツイッターより:編集部

そもそも化石賞を出しているのは国際環境NGO団体である「気候ネットワーク」である。彼らの価値判断は温暖化防止に至高の価値を置く環境原理主義というべきものである。経済、雇用、エネルギー安全保障とのバランスをとりながら温暖化対策を進めねばならない政府と異なり、結果責任を負うことなく、単一の価値観にもとづいて物事を処断するのだからお気楽なものである。

震災後の日本が石炭火力を使い続けなければならない理由は原発の再稼動がなかなか進まず、再エネ導入のためのFIT賦課金負担が拡大する中でエネルギーコストの上昇を抑える必要があるためだ。

エネルギー安全保障、温暖化防止、エネルギーコスト抑制を同時に達成するためには原子力の再稼動が最も費用対効果が高いことは明らかであるにもかかわらず、彼らは再稼動にも反対する。彼らが言うように脱石炭を行う一方、目標引き上げを行えば間違いなく日本のエネルギーコストは大幅に上昇し、日本経済にマイナスの影響を与えることになるだろう。

そうなれば結果的に温室効果ガスは減るだろうから環境NGOとしては満足なのかもしれないが、責任ある政府のとれるオプションではない。

更に化石賞の選定基準も恣意的である。米国、豪州、日本等、EU以外の先進国及び産油国が受賞することが多く、その他の途上国はめったに受賞しない。今回、ブラジルが受賞したのは温暖化対策に懐疑的なボルソナーロ政権が誕生したからだろう。

環境NGOが糾弾する石炭の最大の消費国も石炭火力輸出を最も推進しているのも中国である。しかも中国の石炭火力輸出の中には燃焼効率の悪い亜臨界技術が相当部分含まれている。にもかかわらず中国が化石賞を受賞したことは筆者の記憶する限り一度もない。このようなダブルスタンダードがまかり通る賞の正当性には大きな疑問がある。

写真AC

加えて化石賞の想定する世界と現実世界には大きな乖離がある。石炭批判の大合唱がそこかしこで聞かれるCOP25においてインド産業連盟(CII)と意見交換する機会があった。彼らはインドにおける石炭の役割について「インドには絶対貧困線以下で暮らしている人が数億人おり、生活レベルが上がれば石炭、石油、ガスの消費は増大する。再エネを大量に導入しているが、エネルギー需要全体が急増しているため、石炭消費の絶対量は減少しない。

インドでは「石炭悪玉視」はワークしない。石油、ガスの輸入増大はセキュリティ上の懸念があり、再エネ100%はあり得ない。発電部門の少なくとも30~40%は石炭であり続ける。石炭火力の多くは老朽化しており、これを高効率のものにリプレースしなければふるい石炭火力が使われ続けるだけだ」と述べていた。

来日中のタスリフ・インドネシアエネルギー鉱物資源大臣のインタビュー記事において大臣は、「石炭火力は価格競争力があり、エネルギー源が思っているよりも早く(再生可能エネルギーなどへ)移行することはない。今後も国内でも石炭を利用する。どの国も産業育成のためあらゆる資源を利用して発展を遂げた。インドネシアにもそれを認めてほしい」と明言している。

いずれもエネルギーの現状を考えれば当たり前すぎるほど当たり前の議論だ。そうしたコモンセンスがCOPの世界、特にNGOの世界では許されざる異端となってしまう。冒頭の記事にある「世界では脱石炭の流れが決定的だ」という記述はCOPの世界観にどっぷり染まった結果であろう。

最後に化石賞がどんな感じで授与されているか、日本が2度目に化石賞を受賞したときの画像を添付する。日本が化石賞を受賞すると日本の環境NGOの女性が日本国旗と石炭の入ったバケツを持って「表彰台」にあがり、周囲のNGOからは「How dare you!」と罵声があがり、石炭を模した黒い塊が投げつけられる。

まあ高校の学園祭程度の催しであるが、それを世界中で最も熱心に取材しているのが日本のメディア各社である。化石賞は毎日18時頃に発表になるが、18時前には日本のテレビカメラが待機している。大方、日本の環境NGOから「今日は日本が受賞する」と事前に通報を受けたのであろう。

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グーグルトレンドでFossil of the Day Award という言葉と化石賞という言葉を比較すると後者のチェック回数が圧倒的に高いことがわかる。要するに化石賞を有難がっているのは日本くらいであり、だからこそ国際環境NGOも日本を狙い撃ちにするのである。

今回のCOP25ではメカニズム交渉において日本が非常に重要な役割を果たし、小泉環境大臣も30数回のバイ会談を通じて関係国間の調整を図った。クロージングプレナリーでシュミット・チリ環境大臣(議長)から日本の努力について特別に感謝の意が表明されたのは異例なことであるが、そういう記事やニュースはほとんど流れない。

「日本は孤立している、日本は批判されている」という記事ばかりがCOP期間中に紙面やテレビをにぎわすのは筆者が交渉官をやっていた頃から全く変わっていない。「メディアの自虐趣味も病膏肓だ」と嘆息したのはそれが理由だ。

国際交渉は国益がぶつかり合う熾烈な場である。

小泉大臣には化石賞のような茶番を顧慮することなく、「途上国は引き続き石炭を使っている。それがすぐに変えられないのであればどう効率的に使ってもらうかを考えるべきだ。日本国内で石炭消費を減らす最短の方法は原発再稼動を進めることだ。温暖化防止を重視する環境NGOには是非、原発再稼動を応援してほしい」というくらいの気概をもっていただきたいものだ。