日本と類似点?「報道の自由が悪化」と指摘されたアルバニアの惨状

「メディア展望」(新聞通信調査会発行)11月号に筆者が寄稿した「欧州情報」の記事に補足しました。
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報道の自由調査団の会見(IPIウェブサイトから)

ここ数年、東欧諸国で言論の自由の危機を指摘する声が目につく。

6月には、報道の自由を擁護する国際的組織の代表者らが西バルカン地域にあるアルバニア共和国(人口約286万人、首都ティラナ)を訪れ、同国の報道の自由の状況について聞き取り調査を行っている。アルバニアは欧州連合(EU)への加盟を望んでおり、調査団の判断が加盟交渉の行方に一定の影響を与えることが期待された。

以前に紹介した、チェコやハンガリーの言論状況(2019年1月号6月号「欧州情報」)に続くものとして、本稿ではアルバニアのメディア状況についての調査結果を記してみたい。

1990年以降、一党独裁制の終了へ

アルバニアの位置(外務省のウェブサイトから)

アルバニアの近年の歴史を振り返る。

鎖国的な共産主義体制から抜け出たのは、1990年である。それまでは勤労党(1991年に社会党に党名変更)による一党独裁制が続いてきたが、この年、東欧改革の影響を受けて野党の設立が許可され、翌年には初の自由選挙が行われている。

1991年、アルバニアは英米と国交を回復させ、国際通貨基金(IMF)、世界銀行、欧州安全保障協力機構(OSCE)に加盟。その後、欧州評議会(1995年)、世界貿易機関(WTO、2000年)、北大西洋条約機構(NATO、2009年)にも加盟している。

しかし、念願のEU加盟は2014年に候補国の地位を獲得したものの、なかなか先に進んでいない。

昨年、加盟国はアルバニアと北マケドニアの加盟交渉を6月に開始する方針を決めたが、フランスやオランダなどが慎重姿勢を示したことで、10月まで先送りとなった。

10月17日から行われたEU首脳会議では、北マケドニアとアルバニアの加盟交渉入りが議論されたものの、フランスを含む一部加盟国の反対で、結論は先送りとなった。来年5月、議論を再開する予定。

アルバニア国内では、今年2月以降、与党社会党の選挙不正や汚職疑惑をめぐって抗議デモが発生し、6月末の地方選では主要野党が参加をボイコットする政治危機にまで発展した。

「報道の自由が悪化」という指摘

さて、アルバニアを訪れた調査団は、どのような結論に至ったのか。

調査団の構成メンバーは「国際新聞編集者協会」(IPI)」(筆者もこの組織のメンバーである)、「プレスとメディアの自由のための欧州センター」(ECPMF)、「アーティクル19」、「ジャーナリスト保護委員会」(CPJ)、「欧州ジャーナリスト連盟」(EFJ)、「国境なき記者団」(RSF)、「南東欧州メディア組織(SEEMO)」の代表者で、6月18日から21日、アルバニアのジャーナリスト、市民団体、国際組織のほかに、ラマ首相を含む政府関係者に話を聞いた(首都ティラナの市長との会合は拒絶されたという)。

調査団は、中間報告書の中で、アルバニアの「報道の自由は悪化している」と結論付けた。

「民主主義国家として、欧州評議会やOSCEの加盟国として、EU加盟候補国として、アルバニアの法律及び欧州人権条約を含む国際的な規範の下で必要とされる、表現と報道の自由を保障・擁護する義務を果たしていない」。

問題点が6つ指摘されている。

(1)は「メディア規制の改正について」。

昨年12月、政府はメディア法の改正を試み、オンラインメディアを登録制にして、裁判所の命令を得ずに罰金を科したり、閉鎖したり、外国のオンラインメディアをブロックしたりできる権力を持つ管理組織の設置を目指した。調査団は、改正はオンラインメディアを国家の管理下に置くことを意味し、アルバニアの表現や報道の自由に負の影響を与えると指摘した。

しかし、国会は国民から意見を募った後で、公聴会を12日まで開催し、19日には改正法が可決される見込みだ。

(2)は「名誉棄損の事例」で、政治家がジャーナリストに対し、名誉棄損であるとして巨額の損害賠償を求める事例が増えているという。このような動きはジャーナリズムに「萎縮効果を与える」。

(3)は「ジャーナリストに対する脅し、攻撃、ジャーナリスト側の自主規制」。

例えば、反政府の抗議デモに参加したジャーナリストが攻撃されたり、報道内容を巡って嫌がらせを受けたり、解雇されたりする場合だ。調査団によると、当局側はジャーナリストに対する攻撃を十分に捜査しないという。誰も罰せられないので、ますます嫌がらせや攻撃がエスカレートすることになる。

(4)は「ジャーナリストに対して組織的な中傷行為が行われている」点だ。

例えば、調査団との会合中、ラマ首相はジャーナリストを「ゴミ箱」と呼んだという。一方、野党党首はメディアが「取り込まれている・買われている」と表現する。こうした言い方はジャーナリストを貶め、一般市民の間にジャーナリストに暴力を働いてもかまわないという気持ちを醸成させてしまう。

(5)としては「情報へのアクセスや記者会見のあり方に透明性を持たせるべき」という。

アルバニアの「情報アクセス法」は素晴らしい法律という評判があるものの、その運用となると不十分だ。当局側はジャーナリストに対し、不当に情報へのアクセスを妨害し、特に独立系のジャーナリストや政府批判を行うメディアに対しアクセス制限が厳しいという。首相は定期的な記者会見を行わず、会見が開催されても、政府寄りのメディアの記者からの質問のみを受け付ける。

(6)は「メディア所有の問題」だ。調査団によると、メディア市場や広告収入が一握りの家族経営のメディアグループに集中している。

「連帯強化」を呼びかける

調査団は、上記の状況の改善を当局側に求めるとともに、ジャーナリストやメディア組織に対し、攻撃の事例について欧州評議会や表現の自由擁護を掲げる非営利組織に報告することを勧めている。また、ジャーナリストや市民社会が「連帯を強化する」ようにと呼びかけた。

上記の指摘のいくつかが日本の状況にも該当すると思われた方もいらっしゃるのではないだろうか。

筆者が注目したのは「連帯の強化」の指摘だ。日本の場合、日本新聞協会に加盟する組織に勤めるジャーナリストとそれ以外の組織あるいはフリーランスのジャーナリスト、それに非営利組織などがともに権力者に対して戦うための基盤が十分に築かれていると言えるだろうか。

また、欧州内では東欧諸国、バルカン諸国などでの報道の自由を支援するための取り組みが上記の組織を含む複数の非営利組織によって行われている。活動資金がEUから提供される場合も少なくない。日本でも、本気で報道の自由をより確実にするための試みが、もっとあってもいいのではないか。


編集部より;この記事は、在英ジャーナリスト小林恭子氏のブログ「英国メディア・ウオッチ」2019年12月27日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「英国メディア・ウオッチ」をご覧ください。