年末を飾るにふさわしいゴーン被告の大逃亡劇

中村 仁

間抜けな検察にあきれる

東京地検特捜部は経営者史上、空前の犯罪者、巨悪として、元日産会長のゴーン被告を逮捕、訴追していました。来春の公判開始を前に、ゴーン被告は監視の目をすり抜け、なんとプライベート・ジェット機でレバノンの首都ベイルートに逃亡しました。やってくれました。

日産サイトより

本人は「私はいまレバノンにいる」と、声明を発表しました。「人権が無視されている不正な日本の司法制度の人質ではなくなった」とも。「日本での逮捕は不当だった。自分が正しいのだ」と、今後、批判を繰り返すでしょう。

検察の間抜けぶりに、開いた口が塞がらないとはこのことです。真面目に論評する気になれません。いろいろな事件があった今年の年末を飾るのにふさわしい大活劇です。海外渡航を禁止した保釈条件に違反、通関の目をごまかした違法行為ですから、日本に戻れば逮捕を免れない。ですからもう、日本に戻らない。検察は網に捕らえた大魚をみすみす逃したのです。

主犯不在で意味がなくなる公判

ゴーン被告に同情、庇護する国をプライベート・ジェット機で海外を移動するでしょうから、東京地検は手をだせまい。地検は歯ぎしりしていることでしょう。春からの公判開始は、主犯不在では宙に浮き、意味がなくなります。押収した大量の資料はゴミの山と化します。

金融商品取引法と会社法の違反で逮捕したところまでは特捜の勝ち、海外逃亡はゴーン被告の勝ちです。さすがにアリババやシンドバットの物語(千夜一夜物語)を生んだアラブ出身らしい活劇です。ドラマになります。タイトルは「間抜けな日本の検察、ずる賢いゴーンの物語」です。どんでん返しとはこのことです。

30日の昼のテレビ・ニュースでは「出国」と表現していました。出国の許可は出ていませんし、保釈中の身ですから、公判前に「逃亡」したが正しい。検察は名誉挽回のために、逃亡犯として指名手配し、逃亡を手助けした関係者を聴取すべき話です。日本とレバノンとの間には、犯罪人の引き渡し条約はない。それでもゴーン被告の引き渡しを要求してみるべきしょう。

犯人逃亡が相次ぐ検察の不手際

ゴーン被告の本人名義ではなく、「別名」を使ったとの報道があります。レバノン大使館にも事情を聴取してみるべきです。ゴーン夫人が欧州に出国した際、押収していたのとは、別のパスポートを持ち、それを使ったそうですね。ゴーン被告については、そうした警戒をしなかったのか。

ゴーン被告からしてみると、数年はかかる最終判決を待ち続け、2,300億円単位の日産からの損害賠償請求、100億円単位の株主代表訴訟で自己破産状態に追い込まれるより、敵前から逃亡してしまうのが賢明な選択肢だった。15億円もの保釈金を没収されても、安いものです。サウジやオマーンに営業目的とかいって、送金していた多額のおカネが役立つ時でしょうか。

とにかく検察は間抜けです。19年は、大阪地検が車で護送中の男に逃亡されたりするなどの事件が続き、不手際が重なりました。最高検は8月に、全国の検察に再発防止を指示しました。そんな中で、ゴーン被告は海外に逃亡、まるで「千夜一夜物語」に加えたい、めったに見られないような見事なドラマを演じました。「大盗賊」は見せ場を作るのがさすがにうまい。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2019年12月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。