マネーの行方、銀行の行方

昨今の金融業界を巡る激震で銀行不要論も持ち上がっています。不要論は極端だとしても長期的には今ある銀行の数は半分どころか10分の1ぐらいあればよいのかもしれません。個人のお客さんがATMやインターネットバンキングで窓口にはいかなくなり、通常の買い物の支払いは電子マネー等でキャッシュレス決済をすれば銀行窓口なんてよほどのことがない限り行く必要はなくなってしまいます。

(写真AC:編集部)

一方、銀行の業務は法人向け業務のウェイトが大きいのも事実です。ボリュームがあり、包括的なサービスを受けるため、相互依存の関係になりやすいことがあります。ここカナダにあるある邦銀はリテールバンクと称する個人向けの銀行業務は原則やっていません。窓口もありません。いわゆる法人向けだけです。実際の運用はその邦銀が提携している銀行の特定支店を介してのみやり取りできる(たとえば小切手を入金できる)といった感じになっています。

要はほとんど業務をやっていないのですが、セキュリティなどに関しては尋常ではない手間暇をかけているため、私はその法人口座のネットバンキングすらやらなくなってしまいました。利用者の利便性を全く考えておらず、保身が先行してしまっているのです。

国内銀行に目を向けてみましょう。「私の担当は誰?」これが私の一番感じる「これが変だよ、日本の銀行」であります。最近は融資担当は全く連絡すらしてこないため、窓口支店の店長とやり取りさせていただいています。その銀行の店長も3年程度でローテーションとなるため、せっかく培った関係も「はい、それまでよ」であります。なぜ、顧客である私が次の店長はどんな人なんだろうとやきもきしなくてはいけないのかさっぱりわかりません。

銀行の言い分は癒着などを警戒していることもあるのでしょう。以前、弊社の担当が結婚するというのでペアのワイングラスを差し上げたところ、社内的に非常に面倒になってしまい、差し上げた担当にも迷惑がかかったことがあります。癒着の温床と思われたのでしょうか?

銀行不要のマネーはPayPayやLine Pay、あるいはクレジットカード会社やJRやコンビニ各社の電子マネーといった民間企業を介した支払いが取って代わっています。最終的には銀行の口座を介しているのですが、一般の人には銀行口座は見えないインフラと化してしまったようです。

Lineとみずほ銀行が組んだ新会社はLine側が51%をもつ、あるいは三菱UFJのコイン業務も自行主導を止めてリクルートと組み、リクルート側が51%持ちます。銀行は顔を隠しているのです。今は個人客向けだけですが、この流れは確実に法人にも向かうでしょう。そうすれば銀行は本当に今の10分の1あればよくなる時代が来るとみています。

ではフェイスブックが主導しようとしたリブラという暗号資産(仮想通貨)が席巻する時代は来るのでしょうか?これは思ったより苦戦しています。理由は政府紙幣という既得権へのこだわりがあるからです。その最大の理由は「政府紙幣はその国の政府が保証している」であります。暗号資産はその担保がないじゃないか、というわけです。

この理論は必ずしも正しくありません。世の中に政府保証がないにもかかわらず世界共通の価値があると思われる資産があります。金(ゴールド)であります。この価値は誰も保証していませんが、皆が一定の評価をするが故にそれなりの価値がついています。これぞ究極の自由取引における価値基準のメカニズムであり、公平に機能しているといえるでしょう。

かつて南米やソ連、東欧諸国などで自国通貨の信用度ががほとんどなくなっていた際、流通していたのは米ドルです。今でこそハイパーインフレはたまにしか耳にしなくなりましたが、政府発行の通貨が絶対だと思うのは先進国のおごりであり、何か新たなプラットフォームを求めている人は多いのです。

仮にリブラのようなものが普及しだしたとしたらアフリカや政情不安のある国で爆発的に使われる公算はあります。その際の問題はセキュリティ上の保証ができない点であります。政府紙幣でもかつては偽札が出回りました。仮想の通貨となればこれを破ろうとする輩は当然出てくるでしょう。事実、旧来の仮想通貨では取引所を中心に数々の問題が発生しました。リブラ協会が難攻不落のシステムを作れるとは思えません。(一時的に完ぺきであっても1年後にそれが維持されているかわからないのであります。)

こう見ると私は日本の銀行は業務の究極の絞り込みを行うこと、そして通信会社や電力会社がそうなったようにマネーというインフラ会社に変わることだろうと思います。そして銀行はそのインフラの使用料が収益の柱になるように変わるのでしょう。

日本では振込に一律にお金がかかりますが、カナダでは業者への支払いや給与の振り込みに振込手数料がかかりません。(その代わり口座維持料や最低預金高が設定されているケースがあります。数ある口座設定の選択肢次第です。)振込手数料で未だに儲ける日本の銀行は全然いけていないのです。

視点をどこまで変えるか、そして銀行がどこまで民間とタイアップできるか、それ以上に赤字だらけの地方銀行をどれだけバッサリ整理できるか、そして金融庁が変身できるかが日本が国際金融社会の中でリーダーシップを取れるかの正念場となりそうです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年1月6日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。