混沌とする世界、トランプ大統領のシナリオ

岡本 裕明

年明け早々、アメリカとイランの物騒な話題で幕を開けてしまいました。この問題はまだ第一幕であるので第二幕、第三幕と続くと思いますが、読みにくいこのシナリオをトランプ大統領がどこまで確信的に計算したうえで行動するのでしょうか?そしてもし、それが最終的に大統領再選へのストーリーだとすれば大きな賭けといわざるを得ないと思います。

トランプ大統領(Gage Skidmore / flickr)、ソレイマニ司令官(Wikipedia)

個人的には1月中に行われるトランプ大統領への上院での弾劾裁判に関し、人々の目線を少しでも違う方に持っていきたいという思惑を見て取っています。上院の弾劾裁判はまずもって可決する可能性はないのですが、弾劾という響きそのものを薄くし、どちらかといえば人々の目線を対外問題に引き付け、トランプ大統領の手腕を見せつける効果を狙ってる公算は大いにあるとみています。

次いで気になるのは大統領がエアフォースワンで5日、フロリダからワシントンに戻る機内での会見で「金正恩朝鮮労働党委員長が私との約束を破るとは思わないが、もしかすると破るかもしれない」と語っている点です。

たった一言だけ北朝鮮に言及しているのですが、今までの金正恩氏への期待値が込められたトーンと全く変わっている点に留意したいと思います。当然ながら大統領には様々な情報が上げられているわけで北朝鮮はアメリカとディールしないという姿勢を見せている可能性が高いのだろうと思います。イランの次には北朝鮮にも厳しい姿勢を見せる可能性を示唆しているように感じます。

今回のイランのソレイマニ司令官殺害という行動は今まで放置してはいけなかった要注意人物を「誰もやらないから俺がやった」という点を強調する目的もあります。これは金正恩氏に対しての警告であるともいえます。ただ、ウーサマ ビン ラーディン氏を殺害するのとは違うインパクトがあります。

私がいみじくも先週土曜日のブログで「イランは必ず報復する」と述べましたが、国と国の関係、国民性、執着心、宗教的な常識観の相違などは日本ではなかなかわからない肌感覚というものがあります。

カナダはイラン人が多く、特にここバンクーバー地区のイラン人人口は大きく、私のシェアオフィスの周りはイラン人だらけで顧客にもイラン人は相当多く抱えています。イラン人が世界中に散らばる中、本件の扱い方を間違えればとんでもないことになるのは確実であり、大統領選挙どころではなくなる可能性もあります。

ところでアメリカ経済と株式市場にはどのような影響が出るでしょうか?経済については見方が分かれており、いつまでも右肩上がりが続くものではないという景気循環説に基づく息切れを唱える説と今年はまだ大丈夫だろうという楽観説があります。高揚感なき株価の堅調さとは金融緩和でじゃぶじゃぶのマネーが行き場を失っているだけであります。

ただ、実体経済と踊らされている株価に乖離が生じるようになれば否が応でも売られることはあるでしょう。

その際にトランプ大統領はFRBに「利下げをしないからいけないのだ」とツィッター砲を放ち、事実、実体経済が低迷すれば利下げを考えざるを得ない状態になります。また、それは大統領の嫌うドル高からドル安へ実質的に誘導できるわけですから大統領としては実に都合の良いシナリオが完成します。

さて、計算通りにコトが運ぶかは大統領のかじ取り次第でありますが、少なくとも運転席でハンドルを握るのは大統領その人だという点においてこれはアメリカという国家の機関決定なのか、ドナルド トランプ氏という個人の無茶ぶりなのか、案外アメリカの一般国民が一番冷静に物事を見ているのかもしれません。

2020年、一年かけた壮大なドラマが始まります。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年1月6日の記事より転載させていただきました。