日本維新の会の下地幹郎衆議院議員(比例九州)が7日、IR汚職事件で渦中の中国企業側から100万円を受け取った問題の責任を取る形で離党届を提出した。下地氏は7日深夜にSNSに投稿し、
とコメント。最終的な進退については持ち越した。しかし、松井一郎代表(大阪市長)はすでに議員辞職を要求しており、除名など厳しい今後が予想される。
野党議員の下地氏が政府や自治体のIR政策に影響を与える権限はなく、収賄罪での立件は困難とみられるものの、選挙資金として提供された100万円の報告を怠り、外国企業からの献金を禁じた政治資金規正法に抵触した責任は必至だ。
下地氏離党で維新の党勢に影響?
さて逮捕された秋元司議員以外にも問題の企業から現金を受け取った議員が出てきたことで、IR疑惑の広がる衝撃についての論評はきょうの朝刊各紙にお任せしたい。私が本件で注目するのは、年内に予想される解散総選挙を見越した日本維新の会の党勢に与える影響だ。
党内の下地氏の“序列”を確認すると、新聞報道で紹介される肩書きこそ国会議員団副代表だったが、松井代表や吉村洋文副代表(大阪府知事)らが名を連ねる常任役員には入っておらず、2人いる非常任役員の1人に過ぎない。民間企業にたとえると取締役より格下の執行役員といったところか。
民主党政権で閣僚も経験したベテラン議員の割に、処遇が微妙なのは、簡単にいうとやはり外様だからという側面は否定できまい。政治家としてのキャリアのスタートは自民党だったが、最初の落選後の浪人中に離党。地元では地域政党を旗揚げし、国政では無所属として復活。以後は国民新党→浪人→維新という「渡り鳥」人生だった。
成果を見せつつあった「下地戦略」
下地氏が入った後の維新もまた東西に分裂するなど紆余曲折してきたが、本人は大阪組への忠誠は貫いてきた。それでも悲しいかな、前述したように、外様的な扱いが続いてきたが、党勢が大阪以外に拡大できなかったなかで積極的に奔走してきたのが、全国各地の地域政党とのネットワーキングだった。これについては去年の参院選前に「下地戦略」として紹介した通りだ。
簡単に振り返ると、維新は、東京進出の足がかりとして、石原慎太郎氏や江田憲司氏ら有力政治家と組んでは離れを繰り返してきた。それは、大阪組を主体にした「純化路線」と、M&A的に他党と合併する「拡大路線」の狭間を行き来する苦悩の歩みだった。
これに対し、「下地戦略」は、企業でいえば緩やかな業務提携や資本提携からネットワーク化を深めて、じわじわと影響力を広域化するという第三の手法とも言えた。下地氏としては党内での自らの地位を築くためにも人脈を生かして水面下での折衝には苦心したはずだ。
この路線により、河村たかし名古屋市長の減税日本(愛知)、鈴木宗男氏の新党大地(北海道)との提携にまず成功。さらに音喜多駿氏のあたらしい党(東京)、元神奈川県知事の松沢成文氏を巻き込む流れをつくった。昨年の参院選では、愛知で減税日本とダブル公認した候補は落選したものの、鈴木氏は比例トップで当選。さらに音喜多氏、松沢氏がそれぞれ選挙区で当選し、維新として参院選の首都圏選挙区で初めて議席の確保に成功。党として悲願の全国区への大きな足掛かりを得たばかりだった。
自民党を江戸幕府に例えるなら、地域政党同士の連携から党勢を広げていく維新の近年の手法は、幕末に幕政改革を要求した有力大名らで構成する「四侯会議」や、そのあとにできた薩長土肥の同盟関係を連想させる。大阪の生え抜き議員であれば提携交渉で角が立つところを、酸いも甘いも知る外様の沖縄選出議員が立ち回ることで円滑にもなったのだろう。結果として、大阪色が強いこれまでの維新に無かった「プラス@」が生まれようとしていた。
下地氏に変わる外交人材はいるのか?
しかし、戦略を主導してきた下地氏が党を去ったことで、維新の全国展開に暗雲がたちこめるのは間違いない。生え抜きの大阪組で、全国津々浦々に人脈を広げる「外交力」を持った議員は見当たらず、維新の関係者は「下地氏の代わりはいない」と今後に懸念を示す。
安倍政権が求心力に陰りを見せつつある中で、左派野党は立憲民主、国民民主の合併はまだ微妙なものの、選挙戦での共闘路線は共産党も含めて前進している。また、山本太郎氏のれいわ新選組の台頭も侮れない。
そういう中で維新は、いまさら「純血路線」に戻せるはずもなく、逆にM&A路線で統合対象に唯一なりえた国民民主党は立憲民主党とお見合い中だ。かといって下地戦略を後継する第3路線で穏健なダイバーシティ化を進めようにも、調整能力のある人材が見当たらない。新人の音喜多氏には荷が重すぎ、鈴木宗男氏は大ベテランとはいえ維新では日が浅く大阪の党本部のためにどこまで骨を折るのかは未知数だ。
橋下徹氏の政界復帰も見通しがない中で、維新がどういう全国チェーン化戦略を取るのか。マスコミはあまり注目しないが、下地氏の離党は、維新にとって致命的なイメージダウンではないが、党勢拡大の実務という点では小さくない痛手に見える。
—
新田 哲史 アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長
読売新聞記者、PR会社を経て2013年独立。大手から中小企業、政党、政治家の広報PRプロジェクトに参画。2015年秋、アゴラ編集長に就任。著書に『蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?』(ワニブックス)など。Twitter「@TetsuNitta」