音喜多氏擁立は、維新×地域政党「下地戦略」の一環か

新田 哲史

日本維新の会が参院選東京選挙区の候補者として、前都議の音喜多駿氏を公認する方針を固めた。あす3日夕方の記者会見で正式に発表する。維新唯一の都議、柳ヶ瀬裕文氏も比例で擁立する方針で、東京都内の比例票の掘り起こしにも力を入れることで音喜多氏を側面支援する狙いがあるとみられる。

維新が音喜多氏を擁立する可能性については、北区長選で敗れた直後に書いた拙稿でも言及したが、正直なところ当時は「万が一」のシナリオ程度での想定でしかなかった。しかし、先週末から動きが慌ただしくなってきているとの情報は筆者も仄聞して取材をしていたが、一時は「音喜多氏が比例、柳ヶ瀬氏が東京」という情報も浮上するなど錯綜した。

柳ヶ瀬氏(やなチャン!より)

そしておととい、東京選挙区の展望記を載せた直後、馬場伸幸幹事長が新橋駅前の街宣で柳ヶ瀬氏の出馬を漏らすハプニングが発生(柳ヶ瀬氏の動画:18:11〜)。おそらくこの馬場幹事長の“ポロリ発言”もあって、すでに擁立の動きを把握していたであろう産経新聞と読売新聞が裏どりを本格化、両紙だけが特報したのだろう。なお、産経だけは柳ヶ瀬氏の比例出馬も報じていた。

柳ヶ瀬氏の出馬は全くの想定外で、筆者も仰天したが、世間的には音喜多氏の出馬報道に耳目が集まる分、「あたらしい党はどうなっちゃうの?」(早川忠孝さん)という疑問が多いようだ。ただ、これについて維新の関係者に取材をすると、大阪だけの「内弁慶」状態が続いてきた同党にとって、これまでと党勢拡大のアプローチに変化をつけているのを強く感じる。

というのも、筆者は前回参院選の際に聞いていた話と比較していたからだ。維新(当時はおおさか維新の会)は東京選挙区の候補者を模索していた際、ある政治団体の代表を務める現職議員の擁立がなるか交渉。入党を打診したものの、維新とは会派等の緩やかな形で組むことを希望していた、その議員は固辞。結局、田中康夫氏を擁立した(結果は次点)。

それからすれば、あたらしい党が公認と推薦を合わせて10人の当選者を出したとはいえ、現職の地域政党代表の音喜多氏を公認するのは、往時の「純化路線」では考えづらい。何か変化があったのだろうか。

北海道、愛知で姿を見せた維新所属の「現職地域政党代表」

少し前の統一地方選に話を戻すと、維新の大阪での圧勝ばかりを思い起こしてしまうが、北海道でこういう動きがあったのはほとんどの人は忘れているだろう。

大地と維新が北海道議選と札幌市議選で選挙協力(毎日新聞デジタル 3月18日)

日本維新の会と、北海道に拠点を置く地域政党「新党大地」は18日、4月7日投開票の道議選と札幌市議選で、選挙協力する方針を発表した。維新の6候補を大地が、大地の2候補を維新が相互推薦する。維新の下地幹郎国会議員団副代表と、大地代表の鈴木宗男元衆院議員が18日、札幌市で記者会見し「身を切る改革など政策が一致する」と話した。(太字は筆者

さらに昨年8月にさかのぼると、維新は名古屋市の河村たかし市長率いる減税日本とも愛知エリアの選挙協力を締結している。

減税と維新が愛知で選挙協力へ 来年の統一地方選で(朝日新聞デジタル 2018年7月5日)

北海道の方は思うように戦績を挙げられなかったが、愛知については2016年参院選の頃から連携していて、4月の名古屋市議選では、改選前の8議席を上回る14議席を獲得するなど成果を見せた。

そして、先週の月曜(5月27日)には、参院選愛知選挙区の候補者で、減税日本は維新とフリーアナウンサーの女性を共同で擁立することを発表した。ここで注目したいのは河村市長が候補者を決めた後に接触し、共同擁立を確認した維新側の人物だ。CBCニュースがその様子を捉えている。

CBCニュースより

そう。先述の北海道の記者会見でも登場していた下地幹郎衆議院議員だ。維新は近年、大阪以外への党勢を伸ばすにあたり、北海道の新党大地や愛知の減税日本といった各地の有力な地域政党とのネットワークを進めているが、それを主導している一人が、沖縄県選出という維新の中では「外様」の下地氏。いわば、「下地戦略」(維新関係者)とも呼ばれるような全国展開の布石を打ってきたようだ。

下地氏(2016年撮影)

実はその下地氏自身も2000年代は地元沖縄の地域政党「そうぞう」を率い、2013年以降は維新との融合を推進してきた身である。そうぞうに所属していた地方議員は維新に籍を移したが、自らは今もなお維新所属でありながら、そうぞう代表でもある。

全国展開「第三の手法」の成否は?

維新はダブル選に圧勝したが、直後から結党以来の懸案となっている「全国展開」の課題をメディアが指摘するようになった。例えば産経新聞は4月7日の投開票日の速報段階で早くも『維新「次の10年」の展望どう描く 全国政党へのハードル』と題した記事を掲載している。

産経記事にもあるように、維新は、東京進出の足がかりとして、石原慎太郎氏や江田憲司氏ら有力政治家と組んでは離れを繰り返してきた。それは、大阪組を主体にした「純化路線」と、M&A的に他党と合併する「拡大路線」の狭間を行き来する苦悩の歩みだった。

その点、「下地戦略」は、企業でいえば緩やかな業務提携や資本提携からネットワーク化を深めてじわじわと影響力を広域化するという第三の手法とも言える。

音喜多氏の擁立をめぐっては、筆者の取材では、大阪の党本部が一時難色を示したと聞く。それでも、最終的に擁立に傾いた背景としては、この「下地戦略」の流れも影響したのではないだろうか。

維新以外で、地域政党の首脳が国政政党から出馬した先例としては、2007年の参院選東京選挙区で、生活者ネットワークの前代表、大河原雅子氏(元都議)が民主党(当時)から出馬してトップ当選している。ネットはその前後も国政選では民主党(のちの民進党)候補者を推薦するなど支援していた。

維新とあたらしい党との「住み分け」等についてまだ詳細はわからないが、いずれにせよ、維新の新しい全国展開戦略が功を奏すのか、参院選が試金石になるのは間違いない。

一方で、丸山議員の発言問題や長谷川豊氏の差別発言問題の影響はどこまで尾を引くか。

余談ながら特に丸山問題の後、ロシア大使館への謝罪について筆者は維新の外交センスを疑った経緯もあり、参院選の政策は厳しく見ていくつもりだ。