元手は麻薬や独裁者…スペイン新与党ポデモスに外国から政治資金疑惑

白石 和幸

メキシコ大使館に亡命したエボ・モラレス政権中の9人の閣僚と高官

昨年12月30日にボリビアからメキシコ大使とスペイン外交官2名が国外退去を命じられる事件があった。この事件の発端はエボ・モラレス前大統領のメキシコからアルゼンチンへの亡命に伴って、同大統領の政権中の閣僚と高官ら9名が在ボリビアのメキシコ大使館に亡命したことであった。

メキシコ政府はこの9名の身柄のボリビア暫定政府への引き渡しを拒否し、またスペイン暫定政府は9名のうちのラモン・キンタナ官房長官とエクトル・アルセ法務相を救出しようとしたというのが国外退去に繋がったという。

しかし、疑問なのは、なぜスペイン暫定政府がこの2人だけを連れ出そうとしたのか?あるいは、在ボリビアのスペイン大使館の独断でそれを遂行しようとしたのか?

いずれにせよ、この2人だけに限定したというのが疑問としてある。それを以下に解明して行く。

麻薬で稼いだ資金をもらっていたスペイン連立政権の政党ポデモス

結論を先に出そう。エボ・モラレス前大統領がコカインで稼いだ資金がポデモスの党首を始め幹部に政治資金として渡されていたのだ。この詳細を知っているのが、前述した2人の亡命者で、彼らをスペインに亡命させて、今後ボリビア暫定政府による調査の対象からこの2人を回避させようとしたのだ。というのも、政治資金を違法に貰っていたポデーモスが今回、社会労働党と連立政権を誕生させたのである。

ボリビアのモラレス前大統領(左)とポデモスのイグレシア党首(ともにWikipedia)

今後ボリビアの検察が調査を進めて行くにつれてポデモスがエボ・モラレスから、しかも麻薬で稼いだ資金を受け取っていたということが解明されるような事態になると、スペインの連立政権の危機に繋がりかねないわけだ。それを事前に防ごうとしてスペイン暫定政府(1月13日の週に政府誕生予定)は前述した2人をスペインに亡命させようとしたのである。

だから、それを熟知しているボリビア暫定政府はスペインのペドロ・サンチェス暫定首相に今回のボリビア国家の尊厳を無視した違法行為に対して謝罪を要求している。勿論、サンチェス暫定首相は当然のごとくそれを無視して沈黙を守っている。

エボ・モラレスは長年カルテル・シナロアと取引をしていた。その取引額は年間凡そ2億5000万ドル(270億円)。その内の200万から300万ドル(2億1600万円〜3億2400万円)がポデーモスが関係しているコンサルタント会社ネウロナに支払われていた。

ポデモスの党首パブロ・イグレシアスは連立政権で副首相に就任するが、彼はベネズエラのウーゴ・チャベスからも多額の資金を貰っていた。なぜ、チャベスやモラレスがそのようにして資金をポデーモスに提供していたのか。スペインに彼らの意向を反映させる政党作りたいというのが理由であった。そしていずれはポデーモスが政権に就くと期待していたのである。それが今回遂に実現することになった。(参照:elespanol.com

エボモラレスが大統領になってからコカインの栽培は15倍の拡大

ペルー出身のジャーナリストで、マイアミを拠点にテレビ番組で色々なスキャンダルをしっかりした裏付けされた証拠をもとに暴いているハイメ・バイリーによると、エボ・モラレスが2006年に政権に就いてからコカインの栽培は15倍に拡大したそうだ。

ボリビアのエル・チャパレ地方で栽培されるコカの94%はコカインとなってシナロアに密売されていたという。ボリビアのコカの栽培はすべてエボ・モラレスが支配していた。ということで、それはあたかも国家が栽培を管理していたようなもので、供給が安定している。コカインの価格も隣国のコロンビアなどに比較して安価であった。

エボ・モラレスは前述した年間で2億5000万ドルの取引額から、バイリーの調査によると、毎月500万ドル(5億4000万円)を稼いでいたという。(参照:youtube.comelespanol.com

現在、ボリビア暫定政府の対外交渉の代表を務めているホルヘ・キロガ元大統領は「ラモン・キンタナとエクトル・アルセの2人の元閣僚が握っている全ての情報が表に出るのではないかとペドロ・サンチェス(暫定首相)とポデモスは恐怖でおののいているはずだ」と指摘した。

ボリビアの検察もポデモスの創設者パブロ・イグレシアス、ファン・カルロス・モネデロ、イニェゴ・エレホンの3人とホセ・ルイス・ロドリゲス・サパテロ元首相そしてバルタサル・ガルソン判事をエボ・モラレスとの関係の解明に公判に証人として出廷を要請する意向を既に表明している。(参照:okdiario.com

検察は既にラモン・キンタナに対しては麻薬組織との取引容疑、エクトル・アルセに対してはヨーロッパにおける極左派政党への支援としてポデモスのイニェゴ・エレホンに資金提供していた容疑で逮捕する意向だと伝えられている(執筆時点)。

ホルヘ・キロガ元大統領によると、ポデモスの創設者はそれぞれ担当する国があり、イニェゴ・エレホンがボリビア担当で、彼以外にファン・カルロス・モネデロはベネズエラ担当、カロリーナ・ベスカンサはニカラグア担当となっていたそうだ。

それぞれの国で表向きは政治面でのコンサルタントとして高額の報酬を受け取っていた。ポデモスが彼らのヨーロッパの代表政党として活動するという狙いからであった。しかも、彼らはそれぞれの国に入国するのに偽造パスポートを使っていたということも判明している。(参照:okdiario.comvozpopuli.com

ポデモスはあの独裁者からも政治資金を貰っていた

ベネズエラの故チャベス前大統領(Wikipedia)

ポデモスの外国からの政治資金疑惑は、南米を代表する独裁者としておなじみ、ベネズエラのウーゴ・チャベス前大統領(2013年死去)からの資金が渡されていたのが最初に判明したことであったが、その後ベネズエラではそれを捜査するための検事総長までもがチャベスの後任のマドゥロ大統領による弾圧から亡命せざるを得なくなって捜査が進められない状態になっている。

そして、現在ベネズエラの司法で活動している検事らはすべてマドゥロの影響下にあるから捜査も中断したままだ。

ボリビアについては、現在の暫定政府は逆にエボ・モラレスの独裁的な政治による犯罪を調査する意向であることから、今回のポデモスの創設者がエボ・モラレスとどこまで関与していたかという解明は進められるはずである。ただ、裁判に出廷の要請を受けても、パブロ・イグレシアスのように副首相になれば、それから逃れる口実は容易に見つけることができるようになるはずだ。

しかし、この事件がさらに進んでスペイン連立政権を揺さぶる要因になる可能性も否定できない。

白石 和幸
貿易コンサルタント、国際政治外交研究家