米国の悪玉退治は一時休戦、米・中貿易協定合意 --- 本元 勝

米・中の関税引き上げ合戦は、1月16日ホワイトハウスにおいて、米国のトランプ大統領と中国の劉鶴副首相が中米経済貿易協定の合意文書に署名した。見るところ、特に合意内容に目新しいものはなく、中国側が大幅に利している貿易黒字の一部を米国製品等の購入で調整約束した程度の内容である。行き過ぎた制裁合戦の一時調整といったところであろう。

あらためて本件の発端を見てみると、米国側から、中国政府と中国企業が米国と米国企業の利益を侵害する不当な行為を行っているとし、それらに対し制裁措置を発動したことから、相互による関税引き上げ合戦に発展したものである。

しかし中国側からすれば、米国側の主張そのものが不当であるという一貫した論調である。

その米国側が主張する具体的内容は、

①中国政府が民間企業に補助金や助成金を支給することは不適切である

②中国企業が米国企業の知財・特許を侵害し、技術移転を強要している

③中国政府による為替誘導による貿易の不均衡

上記の①と②については、米国は1つのことを想定して、2つの問題として論じていると言えよう。それは、米国企業と中国企業の特許・知財獲得競争なのである。近年、ハイテク技術や医療、宇宙など高度先端技術分野における、知財・特許数、また研究論文数で中国は米国を凌ぐ数となり、完全にこの二国だけで競う覇権争いとなっているのである。

①については、ここ数年、中国政府や行政機関は、国内企業の国際競争力強化などを促進する為、国内外の知財や商業不動産の購入などに対し、積極的な補助や助成を継続して行い、金融機関にもそれらの経済活動や投資に対し、積極的な支援を促しきたのは事実である。そして、それらの国家的な産業推進により、現在の中国は驚異的な発展を遂げたとも言えよう。

しかし、これらは中国国内で普通に公開された補助・助成事業であり、世界中の国が行っている税の再配分による国家調達事業しすぎない。単純に中国政府・行政のカネの遣い方が上手かっただけで、ここに違法性や不公平があるとは言い切れない。

②については、そもそも特許・知財を無限に続く不労所得獲得のライセンスビジネスに仕立て上げたのは、誰でもない、米国なのである。

特に顕著なのは、ソフトウェアテクノロジー分野において、広範囲な知財・特許権を取得し、世界中の後発企業からロイヤリティを貰い、又、取得した知財・特許権自体を譲渡・売却して利益を得てきたのである。殆どのパソコンにデフォルトで実装されているシステムやソフトウェアらがその最たる例である。

中国はそれらの知財・特許のビジネスモデルを単に模倣しただけなのである。そしてその模倣は模倣に止まらずイノベーションを掛け、あっという間に米国と同じレベルに追い付き、世界を席捲しているのである。

そして、米国が主張する、知財・特許侵害と技術移転強要については、双方企業の個別案件の争いであって、国家がこれらを包括的な問題として介入する内容ではないと考えられる。

ちなみに、この問題には何ら関係がないが、最近、日本の政府・行政も中国を模倣したのか、知財・特許申請に補助や助成金を支給することにチカラ入れ始めていることも申し添えておこう。

話しを戻すと、これらの争いの中で、米国は新たな新技術5Gで世界トップに立つと評される中国のハイテク企業ファーウェイのスパイ嫌疑を指摘し、世界各国に対しファーウェイ製品の禁輸、取引停止を促した。そして、日本を含む幾つかの国の企業が取引停止を宣言した。

しかし、結局ファーウェイは、世界を先行する革新的技術と製品クオリティの高さで、それら風評に何ら影響を受けず、売り上げを伸ばし続けたのである。世界のハイテク市場がファーウェイを必要としているということなのであろう。

そして、取引停止を宣言した日本企業などは、ひっそりとファーウェイ製品の導入を再開したのである。この件では、中国のハイテク技術に対する認識の低さを露呈した米国と追随した日本を含む同盟国は、とんでもない大恥をかいたとも言えよう。

③に関しては、1月13日に米財務省が公表した最新の為替監視対象国に、中国の他、日本、韓国、ドイツ、イタリア、シンガポール、マレーシア、ベトナム、アイルランド、スイスの10か国が監視対象国となっている。これでお分かりいただけると思うが、あくまで米国の都合上だけの判断なのである。

この米中経済戦争と呼ばれるものは、二国間における世界覇権争いの中の一局に過ぎない。

今後もあらゆる局面で、二国間対立を続けていき、何れ大局に進んでいくのであろう。

しかし、どうにも米国がこれまで得意としてきた、悪玉退治的な無理筋とも見える対立構図設定は、特に経済に関していえば、今の時代いささか古いような気がしてならない。

本元 勝 アジアM&Aコンサルタント