マフィアから死の宣告、護衛付きで生活するイタリアのジャーナリストたち

白石 和幸

イタリアのジャーナリスト、パオロ・ボロメティ(36)はこの6年間常時5人の護衛に守られて生活している。マフィアのことについてこれまで書いて来たことに対し、コーサ・ノストラウやンドランゲタなど5つの麻薬組織から死の宣告を受けているからである。護衛に守らての生活は束縛が多く辛い。しかし、汚職による犯罪が往々にしてあるマルタやキプロスでは国が護衛をジャーナリストに提供しないことに比べれば恵まれている、とボロメティは感じているという。

パオロ・ボロメティ氏Facebookより

「イタリアで護衛に守られて生活しているジャーナリストは20名、また脅迫を受けて警察が危ないと判断しているジャーナリストが他に200名いる」とボロメティは『El Periódico』の取材に答えた。彼らは初歩的な護身術の指導は受けているそうだ。
(参照:elperiodico.com

ボロメティは今もマフィアのことについて執筆を続けているが、最近は同時にマルタのジャーナリストで2017年10月に車を運転していたダフネ・カルアナが爆殺された事件の解明にも勤しんでいるそうだ。彼女はマルタの首相が絡んだ汚職疑惑などを調査していた。

カルアナが殺害された事件の解明にボロメティ乗り出すことに決めたのは、彼が2014年にシシリアで覆面をした二人の人物から暴行を受けて今も肩に損傷の後遺症を残しているが、あの時にカルアナが「書き続けるべきだ。我々の国(イタリアとマルタ)はジャーナリズムは自由であることが必要だ」と言って彼を勇気づけてくれたそうだ。彼女が殺害されたのを知った時に、あの時の勇気づけてくれた言葉を強く思い出したという。そのような因縁からボロメティはカルアナの殺害について解明する義務を感じたそうだ。

カルアナの爆殺事件との直接の関係はないと思われるが、一昨年3月にイタリアの警察は二人のマフィアが会話していたのを盗聴。その中で「時々、ジャーナリストの誰かを殺す必要がある。そうすればそれが一つのサインとなって調査しようとしている彼らに恐れを感じさせることができるからだ」と言っていたそうだ。(参照:elperiodico.com

イタリア紙『La Repubblica』のフェデリカ・アグネリは2013年にローマ郊外の町オスティアでマフィアが絡んだビジネスについて調査していた。その時、偶然にもマフィア同士の銃撃戦に巻き込まれるという出来事があった。マフィアのリーダーが「もう見世物は終わった」と大声で言った。周辺の住民は家の中に逃避してブラインドも閉めたままだった。その出来事のあと、住民はマフィアへの恐れから沈黙を守ったままだったという。

しかし、彼女は警察所にいって一部始終を報告したあと自分の仕事を継続した。その事件の公判が開かれてマフィア組織スパダのメンバーが裁かれることになったが、彼女は証人目撃者として法廷に出廷するまで1736日間警察の護衛つきで過ごさねばならなかったそうだ。彼女の3人の子供の一番下の子どは脅迫も受けた。公判に出廷するまでのその間の孤独感は強烈だったという。その間に彼女はマフィアに協力しているのではなかと疑う者もいたそうだ。

イタリアの異なった組織のそれぞれレポーターが集まって創設した協会「自由の為の酸素」によると、2006年からレポーターが受けた脅迫は3600回以上あったそうだ。
(参照:elespanol.com

1世紀半前から存在しているマフィアについて執筆することは命を懸けるようなものだったし、今もそうだという意味でロベルト・サビアノのことが挙げられる。彼はマフィアカモーラの実態を描いた映画ゴモラの作者である。彼も同様に護衛付きの生活を余儀なくさせられている。

シシリア出身のリリオ・アバテはパレルモから離れ、2007年から護衛付きでローマで生活している。2012年からローマに根付いている新しいマフィアについて執筆している。

映画「ゴッドファーザー」が上映されたのと同年1972年にフランチェスコ・ロシ監督による日本語題名「黒い砂漠」という映画が傑出している。この映画はすべて事実に基づいて製作されたということで、ロシ監督にとっても自らの生命を危険に晒したことになった。

内容は米国の国際石油企業の独占と戦うイタリアの実業家エンリコ・マテイを描いた映画である。彼は1962年にシシリアで数日過ごした後、飛行機事故にあって死亡したのである。それは米国の石油企業に雇われたマフィアの仕業だとされている。

しかも、この製作でさらに不可解な事件が起きている。ロシ監督がこの映画の製作にあってさらにこの事件にまつわる情報を集めたいとして1970年にシシリアのジャーナリストマウロ・デ・マウロにそれを依頼した。その数日後にデ・マウロは姿を消した。今も消息不明になっているそうだ。

1960年、当時25歳のコシモ・クリスティナは殺害されたが、マフィアは彼の死体をトンネルの中に放置して自殺にみせかけようとした。40年後にジャーナリストマリオ・フランチェセによってそれが明るみとなった。ところが、マリオ・フランチェセも1979年に殺害された。(参照:elpais.com

イタリアの自治体にはマフィアが常に絡んでいる。五つ星運動のヴィルジニア・ラッジがローマ市長になって当初手に焼いたのはあらゆる市政の背後にマフィアが絡んでいるということだった。

アンドレオティ元首相はマフィアと関係をもっていたことは良く知られていたことだ。ベルルスコニー元首相は今もマフィアとは接触がある。

またスペインでもイタリアマフィアは麻薬ビジネスの格好の場所だとして活動している。

白石 和幸
貿易コンサルタント、国際政治外交研究家