変わる北米の食生活と健康意識

北米でPelotonというフィットネスのコマーシャルが派手に流れています。これは自宅のフィットネス用自転車(いわゆるエアロバイク)の宣伝です。1台2000ドル以上で更に月40ドル程度のサブスクリプションも必要なのですが、コンセプトなどが極めて優れており、数年前からニューヨークあたりで爆発的人気が出て、今、北米を席巻しつつあります。

(Peloton®ホームページから:編集部)

(Peloton®ホームページから:編集部)

かつてのエアロバイクはテレビや音楽を聴きながら運動するイメージが強く、傍で見ているとテレビを見ているのか、バイクを漕いでいるのかわからない方もいます。一方、スピニングバイクを取り入れたフィットネスクラブは10数年前からごく普通にあるのですが、現代社会がどんどん忙しくなる中でフィットネスクラブに行く時間がない人はどうするのでしょうか?

そこで、自宅のリビングに置いたバイクなのに他の人とクラスで一緒に走っているような没入感を持たせる大画面を自転車に装着しているのがこのPelotonです。あたかも皆と一緒にどこかに向かって走っていくようなプログラムです。ネットゲームのフィットネス版だと考えてもらってよろしいかと思います。

これは形を変えた一種の宗教ではないか、という人もいます。宗教という言葉が正しいかどうかはわかりませんが、ある信条を持った強い結びつきの人たちの集団形成をフィットネスという繰り返し行う作業によってより強固にしていくというわけです。これが私の見る北米のトレンドの最先端です。

食の話なのになぜ、こんな前振りをしたか、というのはトレンドの先端を行く人たちのライフスタイルは非常にストイックになり、自己コントロールをより高めることにより価値観をより高める発想が確実に増えてきている点であります。そしてその攻撃対象は確実に食に向かっているのであります。

アメリカには確かに肥満の人が多いです。遺伝の影響もありますが、それ故、健康意識はより高まります。それも背景なのでしょうけれど、自然食品のホールフーズなどが全米で爆発的人気になったこと、チポトレというメキシカンのヘルシーフードチェーンが流行ったこと、そして今般、ビヨンドミートやインポッシブルフーズなど植物由来の人工肉が爆発的人気を呼ぶ方向にあります。

80年代末期、私は勤めていた会社が買収したアメリカのホテルチェーンの役員会に毎月秘書として同行していました。その際、役員フロアにいる役員らのランチはブラウンバッグランチ(茶色い紙袋に入っている家で作ってきたサンドウィッチ)をほおばりながら仕事をし続けています。なぜ、と聞けば時間を節約し、その分早く仕事を終えて帰りたいからだ、と言われました。

北米に28年もいるから分かるのですが、こちらは基本的に食生活はシャビー(品祖)です。だから、時々、ディナーに行くと何を食べても「素晴らしい」「うまい」になりがちです。要は元から食へのこだわりが少ないのだとみています。故に健康がメインテーマである現代社会において非健康的な食は排除する傾向が見て取れるのです。

冒頭のPelotonのフィットネスは汗だくで必死に自転車をこぐシーンがコマーシャルで流されますがそこから健康志向への強いメッセージを感じ取ることができます。ブルームバーグに「カロリー消費に必要な運動量を食品に表示するメリット」というビデオニュースがあります。〇〇を食べるとどれだけ運動しなくてはいけないか、を意識することで余計なカロリーを取らずに済む、というものです。アメリカらしい発想です。

ちなみに私は30数年前ダイエットで1年で十数キロ落としたことがあります。私が自分なりに組み立てたプログラムがカロリーのIn Outという発想で、「デブ」になるのはIn takeが多いからだから消費(Out)を増やせば痩せるに決まっているというごく単純な発想でダイエットに成功したことがあります。

北米でビールの消費が減っているのもこの健康志向の一環かもしれません。腹が出てくるビールではなく、ウォッカ系の強めのアルコールをぐいと飲むということでしょう。日本でもストロング系が流行っていますが、こちらでも先日アルコール分9.5%のビールを飲んだら確かに酔いへの効率は良かったです。

なんだかすべてが計算ずくめのライフなのですが、教育あるもの、そういうライフを目指すべきという「宗教的啓蒙」が進んでいるのもここ北米であります。このトレンドは見逃せない動きとなると思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年1月20日の記事より転載させていただきました。