独極右党が初のキングメーカーに

ドイツの旧東独テューリンゲン州議会で5日、第2党の極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)と第3党「キリスト教民主同盟」(CDU)の支持を受けた同州議会第6党の「自由民主党」(FDP)のトーマス・ケンメリヒ氏(55)が州首相に選出されるという想定外の結果となり、大きな波紋を呼んでいる。

▲テューリンゲン州議会での首相選出結果を歓迎するAfDのイェルク・モイテン共同党首(AfD公式サイトから)

▲テューリンゲン州議会での首相選出結果を歓迎するAfDのイェルク・モイテン共同党首(AfD公式サイトから)

旧東独のテューリンゲン州議会選(定数90)が昨年10月27日実施され、ラメロウ首相が率いる与党「左翼党」が約31%の得票率を獲得する一方、AfDが前回選挙(2014年)比で12・8%増の得票率23・4%で第2党に大躍進した。第3党は「キリスト教民主同盟」(CDU)が21・7%、第4党は社会民主党(SPD)で8・2%、そして「同盟90/緑の党」5・2%、FDP5・0%の順序だった。

その結果、左翼党のラメロウ党首はSPD、「緑の党」の左翼連立政権の組閣を目指したが、3政党の得票率を合わせても過半数50%を超えることができず、42議席に留まった。一方、CDUはAfDと左翼党との連立を拒否しているため、ラメロウ左翼党は3党の少数連立政権を模索するなど、連立工作は難航した。

そして州議会で5日、州首相選が実施され、当選に必要な議会過半数の46票を得る候補者が出ない状況が続いたが、3回目の投票でAfDが自党の筆頭候補者クリストフ・キンダーヴァーター氏を支持せず、CDUと共にFDPのケンメリヒ候補者に投票したため、ケンメリヒ氏が48票を獲得して州首相に選出された。第6党だった政党から州首相が選出されたのは初めてだが、それ以上に注目される点は、極右政党AfDが初めてキングメーカーの役割を果たしたことだ。

メルケル連立政権に参加しているSPDは、「CDUは極右政党とはいかなる政策協定も締結しないという約束を反故にした」と批判し、サスキア・エスケン共同党首は、「CDUとFDPがAfD のビョーク・ヘッケ党首と事前に打ち合わせた演出だ」と激しく批判したほどだ。

一方、CDUのクランプ=カレンバウアー党首は5日夜、「わが党はAfDとはいかなる連携もしないが、同州CDU指導者はその方針を違反した」と説明し、「州議会選のやり直し選挙を実施すべきだ」と要求している。

明確な点は、AfDが左翼党のラメロウ首相を落とすために、FDP候補者を担ぎ出して当選させたことだ。AfDとFDPの間で事前に協議されていたかは不明だが、左翼党、社民党、「緑の党」は「「ドイツ民主政治史で許されない境界線を破った(unverzeihlichen“ Dammbruch)。極右党が実権を握る道を開いた」として、CDUとFDPを激しく糾弾している。

「同盟90/緑の党」のアンナレーナ・ベアボック共同党首は、「ケンメリヒ氏は即辞任すべきだ」と要求。左翼党の院内総務スサネ・へニック・ヴェルゾウ議員は首相宣誓式でラメロウ氏を祝賀するために用意した花をケンメリヒ氏の足元に投げ捨てる、といった場面が見られた。

ラメロウ氏は、「テューリンゲン州では90年前にも同じような状況が起きた。1930年、州議会に国家社会主義ドイツ労働者党(NSDAP)が初めて州政府に参加したのだ」と説明し、極右政党の躍進に警告を発した。

ドイツ政界では既成政党は選挙の度に躍進するAfDとの連携を拒否すると表明してきた。ただし、テューリンゲン州議会選の投票結果の分析によると、AfDに投票した有権者の約40%はメルケル政権への抗議票ではなく、AfDの政策への確信、自信に惹かれて投票したと答えているのだ。換言すれば、CDUやSPDの既成政党は政治信条への確信を失い、政党としてのプロフィールが揺れ出しているわけだ(「独州議会選で『極左』と『極右』が躍進」2019年10月30日参考)。

テューリンゲン州議会での政変が報じられると、ドイツ全土で抗議する国民がテューリンゲン州の都市だけではなく、ハンブルク市、ケルン市、ミュンヘン市などでデモを行った。首都ベルリンでは数百人がFDPやCDUの党本部前で抗議デモを開いた。

テューリンゲン州のAfDのへッケ氏は、「左翼党首相を追っ払うことに成功した。わが党抜きでは、もはや何事もできない」と強調。モイテン連邦党首は、「社会主義の幽霊は消えた。ドイツの政治の大改革への重要なステップだ」とテューリンゲン州首相選の勝利を評価した。

テューリンゲン州首相選はAfDに政権制覇の夢を膨らませただろう。ドイツ政界は大きな転換点を迎えようとしている。

なお、ケンメリヒ首相は6日、緊急記者会見を招集し、「首相職を辞任し、州議会を解散し、早期選挙を実施する意向」を明らかにした、同首相は同時に、「外部から首相ポストの辞任を強制されたのではない」と説明した。州議会解散には議会の3分の2の支持が必要となる。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年2月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。