「アスクルモデル」は浸透するか?ガバナンス改革3.0

山口 利昭

昨日も日本監査役協会の研修にて、ヤフー・アスクル事案を取り上げて、監査役・監査(等)委員の有事対応をお話しておりましたところ、事務所に戻っておもしろい記事を見つけました(ヤフー・アスクル騒動、ここへきて「火中の栗を拾った人」たちの事情)。

Wikipediaより:編集部

昨年の支配会社(現Zホールディングス)との紛争の後、社外取締役が一人もいなくなってしまったアスクルが、3月に臨時株主総会を開催して、新たな社外取締役を選任する、とのニュースは(ちょこっとだけ)知っていました。しかし、上記のような事情があったことは全く存じ上げませんでした。

アスクルのリリース「暫定)指名・報酬委員会「報告書」等および独立社外取締役候補者による「抱負文」に関するお知らせ 」は、なかなか斬新で興味深いところです。

とりわけ社外取締役候補者4名の「抱負文」が開示されている点が斬新です。その中のおひとり、元経営者(楽天の創業者のおひとり)でいらっしゃるGさんの以下の宣言が注目です。支配会社であるZホールディングスも、この宣言を理解されて、候補者として承認をされたのでしょうね。

1) 通常の意思決定において・・・可能な限り親子のベクトルを合わせるよう取り組むべきです。それにより、シナジー効果を得られるので、上場子会社単体の部分最適が親会社グループの全体最適に繋がるよう、自身の知見を提供していきます。

2) 親子の利害が異なる場合・・・上場子会社単体の部分最適を親会社グループの全体最適よりも優先させます。少数株主がいる以上、親会社への貢献は上場子会社の価値向上を通じて提供することを原則とすべきです。

企業統治改革3.0の時代は、個々の企業への敵対的買収やMBOを通じて、マーケットバリューをいかにして上げるか…という視点から、企業間におけるヒト、モノ、カネの流動性(市場の効率性)を高めることに関心が寄せられます(メガバンクの資金がファンド・事業会社を通じて投入され、大手証券会社がなりふり構わず買付代理人を務める時代です)。

そうなりますと(受け皿として)永続的にせよ、一時的にせよ、親子上場や支配・従属会社関係が増えざるを得ないわけで、「少数株主保護のための市場環境の整備」は待ったなしの状況です。アスクルでは10名のうち4名が独立社外取締役となるわけで、アスクルの株主としては「平時」と「有事」の使い分けができる社外取締役に期待が集まるものと思います(といっても、やはり利益相反状況が顕在化したときの支配会社の態度、従属会社の取締役の態度にこそ真価が現れる、と思いますが…)。

親会社、子会社双方の事情を十分に斟酌して、グループ全体としての企業価値向上を目指すバランス感覚と、どうしても利益相反が顕在化してしまう場合の身の処し方を共に兼ね備えている方にこそ、多くの上場子会社(上場従属会社)の社外役員に就任していただきたいと願います。

そういった意味で、この「アスクルモデル」が、他の上場会社に広く浸透していくかどうか…、今後注目しておきたいところです。


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2020年2月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。