クルーズ船内大量感染に日本側の責任なしが判明

八幡 和郎

「ダイヤモンド・プリンセス」で起きた新型コロナウイルスの集団感染について、日本側になにがしかの責任があるという「可能性」があるとすれば、横浜に着いて日本の検疫が始まるまでは感染は例外的だったのに、それ以降あって急に感染が増えたという場合だけである。

ダイヤモンド・プリンセス(撮影は感染発生前、写真ACより)

といっても、船内では入港までバイキング方式の食事やエンターテインメントを続けていたのだから、そっちが原因とみるのが普通だが、それでも一抹の不安はあった。

しかし、昨日、国立感染症研究所が「現場からの概況:ダイアモンドプリンセス号におけるCOVID-19症例」(2020年2月19日掲載)を発表し、暫定的な結論として、感染のほとんどは、日本政府による検疫が開始される以前に伝染していたが、乗組員などの感染のほか一部の乗客の感染がそれよりあとであることもあったとした。

つまり、日本政府の対応に問題があったということは、この分析によればありえないということになる。

発症日の判明している確定例の検討に基づいて評価すると、2月5日にクルーズ船で検疫が開始される前にCOVID-19の実質的な伝播が起こっていたことが分かる(下記船内の常設診療所に発熱で受診した患者数参照)。

確定患者数が減少傾向にあることは、検疫による介入が乗客間の伝播を減らすのに有効であったことを示唆している。乗客の大半が検疫期間を終える2月19日に近づくにつれ、感染伝播は乗員あるいは客室内で発生している傾向にある。

特記されるべき点は、クルーズ船の性質上、全ての乗員乗客を個別に隔離することは不可能であったことである。客室数には限りがあり、乗員はクルーズ船の機能やサービスを維持するため任務を継続する必要があったからである。

つまり、乗客へのサービスを停止するわけにいかないので乗員などが感染してしまったとか、二人部屋の人を別々の部屋に分るスペースがなかったので(分けたら夫婦などが離ればなれになるが)、同室の人が感染した例が少しあったということだ。

岩田教授が言うような問題点はあったかもしれないが、それがゆえに大量の感染者を出したということは断じてないということだ。

船内で消毒作業を行う自衛隊員(自衛隊ツイッターより)

マスコミなどはこの点を世界に向かって発信してほしいものだが、一部のマスコミは検疫開始後の感染例が少数とはいえあったことのほうを大きく報じている。もちろん、感染があったことは感心したことでないが、医者やスタッフがインフルエンザにかかることもあれば入院中や外来者が感染することもそんなに珍しいことではない。

乗客を外出禁止にして部屋に閉じ込めでもしない限りリスク・ゼロではありえない、そんななかで、スタッフと乗客に若干の感染者が出たとしてもそれほど騒ぐ話でもあるまい。ニュース価値があるのは、予想通り、大量の感染者が出たのは、横浜に入るまでの脳天気な体制だったということだ。

それが、日本側の不手際で大変なことが起きたという誤解を世界に与えるとすればそれは国民全体が罰せられ被害を被ることになる。

もし本当に日本側に落ち度があったなら正直に事実を公表すべきだが、こうして責任がないことが明らかになった以上は、日本人としては一致団結して濡れ衣を着せられないように抵抗すべきだ。

しかし、科学的に責任がないことを立証しても、安倍政権に打撃を当たられることができるなら故意に歪曲しても、世界に対して日本を攻撃させるようなプレゼンテーションをしたいという人たちが多いことは承知しているから心配だ。

また、大手製薬会社にお勤めの猪股弘明さんが、Facebookに以下のようなことを書いておられた。

「感染症のプロ」から見れば非常識に映る行為もあったのかもしれないが、簡易な(そして不完全な)隔離程度であっても効果は出ているようだ。

「発症」(熱発など)という意味では収束傾向にあるのに、突然、部外者が割り込んできて指揮系統を乱されたら、たまらんと思うよ。そりゃ重装備の対策がうてればうてるに越したことはないだろうけど、現場でできることなど限界がある。野戦病院的な治療状況では「最低限の対策で最大限の効果を」と考える方が現実的ではないかと思う。

まことにもっともだと思う。クルーズ船でのこういう状況の発生は、世界史上初めての事態なのである。完璧を求めるべきでない。そして、結果を見る限り、岩田氏の問題点の指摘が正しいとしても、それが悲劇的な結果を生んだわけでなく、厚生労働省の対応はいまのところ合格点を出す程度にはうまくいっているというべきだろう。