キヤノンには欠落⁈ VUCAの時代に生き残るための思考法

長井 利尚

私は、以前の記事で、キヤノンの御手洗冨士夫CEOには「VUCAの時代の経営者に必要な資質が決定的に欠如している」ことを指摘した。賢明なアゴラ読者の皆さんは既にご存知のことと思うが、変動性(Volatility)、不確実性(Uncertainty)、複雑性(Complexity)、曖昧性(Ambiguity)の頭文字を並べた軍事用語であり、1990年代後半に米国で人口に膾炙するようになったそうだ。

acworks/写真AC:編集部

次々に新しいビジネスを生み出す米国やイスラエルなどでは、会社などの組織の幹部に、元軍人がいることは珍しいことではない。そのため、変化の激しさやスピードが増すビジネスの分野でも、10年くらい前からVUCAという言葉が使われるようになった。

VUCAの時代に入って久しいのに、VUCA以前の思考法(「PDCAサイクル」など)にしがみついていては、生き残ることは極めて困難だと私は思う。昔の思考法を捨て去らないからこそ、日本の組織の多くは意思決定が極めて遅いし、未知の状況で十分な情報が揃う前に動き出すことができない。

その結果、求める成果を出すことができなかったり、大きな損害を出してしまったりする。昨年秋、長野県で北陸新幹線の電車が台風19号による洪水で浸水し、JR東日本は特別損失を約285億円も計上する羽目になったのもVUCAへの対処法を同社社員が身につけていなかったからだと思う。

VUCAへ対処する有力な思考法は、OODA(「ウーダ」と読む)ループである。日本以外の多くの国では、軍隊だけでなく、ビジネスや政治・行政などの世界でも、普通にOODAループが使われているようだ。

平成の30年間で、日本はどんどん貧乏な国になった。その理由は複数あるが、そもそも、未だにOODAループの存在自体を知っている人が少ないし、OODAループを日常に取り入れている人はさらに少ない。これが、日本人の多くが貧乏になった原因の一つではないだろうか?

OODAループは、米国の軍人であったジョン・ボイド氏が提唱した理論であるが、その源流は、宮本武蔵が江戸時代初期に著した「五輪書」にある。当時の武士道には、例えば「理不尽だと思えば、たとえ目上の相手でも戦う」ことが提唱されていた。

現代人は「武士道」というと、「切腹」「忠義」などを連想してしまうが、このようなイメージは、江戸時代の権力者によって、本来の姿とはかけ離れたものに変質してしまったためだ。本来の武士道とは、権威主義、形式主義、完璧主義を嫌うものであった。

私は本稿を日本語で書いているので、読者の多くは日本人だろうと思う。あなたが日本人であるならば、日本人である宮本武蔵の思想を発展させたOODAループとの相性は良いはずだ。私は複数のOODAループに関する本を読んできたが、まだ読まれていない方には、入江仁之さんが書かれた「OODAループ思考[入門]―日本人のための世界最速思考マニュアル」をお勧めしたい。なお、本稿は広告ではないことをお断りしておく。