安倍総理が緊急会見。試される政府と与党、そして私たち

高橋 大輔

新聞各紙は要旨のみ。官邸サイトでの第一印象

一連の新型コロナウイルスを巡り、安倍晋三首相が異例の記者会見を行いました(会見全文は官邸HPより)。

2月29の安倍首相記者会見(官邸サイトより)

その冒頭発言はおよそ4,200字、時間にして19分少々。翌日3月1日の主要全国紙を買い求めたものの、いずれも要旨しか掲載されておらず、めずらしく官邸ホームページを探しに行く結果となりました。その内容については一定の評価や逆に酷評する声も両論ありますが、私自身は概ね八幡和郎先生の論考に共感を覚えました。

これはどれだけの射程や時間軸で評価するか、たとえば3月だけか、それとも数年先を見据えているかによっても賛否が分かれるところですが、ここでパンデミックの状態に陥ったならば、大局的な方針どころかますます付け焼刃を重ねることになりかねない。

一連の対応が吉と出るか凶と出るかは、今のところ私にも分かりません。ただ方針が出された以上は、いくらネット上で悪態をついても事態が好転するわけでもなく、むしろ声明を受けた自分たちが有権者、あるいは住民の立場でどう迎え撃つかに集中したほうがはるかに建設的です。

その上で、今月10日前後に発表が予定されている緊急策に向け、いくつか思うところを書き残しておきます。

安倍総理が範にすべきは「男子の本懐」濱口雄幸

時おりながら私自身も自治体議員の発信添削やスピーチライティングを手掛けていることもあり、今回の4,200字におよぶ冒頭発言は読みごたえがあると感じました。

もしかしたら先日総理と会食された百田尚樹さんと有本香さんが、草案を建白されたのでは。会食はそのためのすり合わせだったのかもと推察しますが、私の中では許容範囲で、むしろよいお仕事をされたとさえ思います。一方で総理の声が国民に届いたかというと、その辺は物足りない。文章ではなく、発言に対する意気込みには消化不良でした。

私は今回の比較対象として、「男子の本懐」で知られる第27代総理・濱口雄幸内閣が金解禁の際に発した一文「全国民に訴ふ」を連想します。

第一次世界大戦後にわが国が長期不況に陥った際、浮揚を掲げた濱口内閣は経済政策の基軸を金解禁に向けて舵をきるわけですが、その際に「明日伸びんがために、今日縮むのであります」と、自署をしたためて全国民に呼びかけています。結果として金解禁そのものは失敗に終わったのは周知のとおりですが、少なくとも濱口の真摯な訴えは国民に浸透し、総理就任後の第17回総選挙では外交課題の処理や軍縮問題、義務教育の国庫負担に対する評価などと相まって大勝を収めています。

(出典:大阪府立大学 長尾文庫

いまの時代、およそ誰もがSNSやネットを通じて容易に情報へアクセスできるようになりました。総理自身もマスメディアを介さずに呼びかけができるようになりました。

けれども、それは果たしてどこまで本人の心の奥底からの願いであり、そして訴えであるのか。

安倍総理の揮毫(写真は憲政記念館に展示されていた時のもの)

残念ながら、現代の私たちは「アカウント」というものに慣れすぎてしまいました。どうせ「中の人」ではないのか。文言にしても、果たしてどこまで本人の想いが刻まれているのか。国民に訴えるならば、総理自身も日ごろよく揮毫される「至誠」を今こそ示していただきたいと切に願います。なにも自署を求めているわけではありません、どうすれば国民に届くのかを、全力で示していただきたいのです。

可能な限りの新聞はじめ広告媒体に、全面広告を掲載するのもありでしょう。今回の決断の成否は、総理はじめ政府の本気度にかかっていると言えましょう。

そういえば、最近は麻薬撲滅や北方領土、拉致被害者救出などの政府広報を目にする機会も少なくなりました。一連の問題に通じる部分でもあります。

今回は、野党も評価されていい。各党の声明はいかに

私自身は日ごろ不偏不党の立場で政治を眺めておりますが、新型コロナ対策においてもすべての政党に一致協力を期待したいと願っています。今回の総理声明をうけての立憲民主党や国民民主党など各党の発信は、支持政党に関わらず評価されて良いでしょう。

立憲民主党

新型コロナウイルスから、国民の命や暮らしを守ること、日本の経済を守ること、そのためにあらゆる政策を、与党・野党・政府、それぞれの立場を越えて講ずる必要があり、立憲民主党は最大限協力をしていくことに変わりはない。引き続き、新型コロナウイルスを早期に封じ込め、収束させるため、具体的な施策を早期に、そして着実に進めることを強く求める。

出典:党サイトより

国民民主党

国民は今後どう対処すればよいか、その情報を求めている。

国民民主党は、今後も国民の生命と健康を守り、この危機を乗り越えるため、与野党の枠を超えて提案を続けていく。

出典:党サイトより

なんでも反対すればいいわけじゃない。だからこそ、こうした声明はきちんと評価したいと思います。政府の対応が遅いならば、足を引っ張らずに尻を叩けばいい。それが健全な野党のあるべき姿であり、そうした当たり前の対応を積み重ねていけば、おのずと有権者は評価することでしょう。

政府や国会以上に問われるのは、実は私たち

政府や国会を悪しざまにけなすのは簡単ですが、実は一番それぞれの身を顧みなければならないのは、自戒もこめてやはり有権者であり、国民である私たち一人ひとりだと思うのです。

アメリカ・ケネディ大統領の就任演説ではありませんが、求められているのは正に「諸君の国が諸君のために何をなしうるかを問い給うな、諸君が諸君の国のために何をなしうるか」でありましょう。

いま出来ることは、各々が健康維持のためにしっかりとした自衛策を講じることであり、それぞれが属する自治体や地方議会が、いかにして政府や省庁との中継を担ってくれるか注目することです。総理や政府が私に直接手当てをしてくれるわけではなく、およそすべての施策は自治体を通じて行われるからです。

そういう意味でも、まずは市区町村の役所や議員の方々が、自分たちに寄り添ってくれるか、耳を傾けてくれるか。しっかり見ていこうと思います。