国立感染症研究所の脇田隆宇所長は1日、一連の新型コロナウイルスの検査を巡る同研究所の対応についての報道で「事実と異なる」と反論する異例の声明文を出した。
新型コロナウイルス感染症の積極的疫学調査に関する報道の事実誤認について
PCR検査を巡ってネット上でも激しい論争が繰り広げられているが、安倍政権のシンパとアンチの代理戦争のような構図になっている。
反政権の急先鋒、日刊ゲンダイの電子版は28日、「厚労省が政権に忖度か 感染者急増の北海道で“検査妨害”」と題した記事を掲載。立憲民主党の川内博史衆議院議員が予算委員会で、感染研から北海道に派遣された職員が「検査をさせないようにしている疑念がある」と指摘したことなどを取り上げ、
安倍政権が専門家3人を北海道に送り込んだのは、検査件数を抑え、感染者数を増やさないようにするためだった疑いが強い
と一方的に糾弾した。
これに対し、感染研は職員への聞き取り調査の結果として次の3点を公表。
- 感染者の範囲を調査により特定し、対応を行っていく積極的疫学調査のあり方についてアドバイスを行った
- 検査に関する議論の中で、「軽症の方(あるいは無症状)を対象とした検査については、積極的疫学調査の観点からは、「PCR検査確定者の接触者であれば、軽症でも何らかの症状があれば(場合によっては無症状の方であっても)、PCR検査を行うことは必要である」と述べた
- 「一方、接触歴が無ければ、PCR検査の優先順位は下がる」と述べた
患者へのPCR検査を行うかどうか、職員には一切権限はなく、「本所職員の発言の趣旨が誤った文脈に理解され、事実誤認が広がった可能性があるものと考えます」との見解を示して報道を真っ向から否定した。
岡田晴恵氏、上昌広氏の発言も念頭か
さらに感染研は、「検査件数を抑えることで感染者数を少なく見せかけようとしている」「実態を見えなくするために、検査拡大を拒んでいる」といった趣旨の報道で非難されていることにも言及した。
声明文では実名を挙げていないが、連日テレビに引っ張りだこの元感染研研究員の岡田晴恵氏(白鴎大教授)や、感染症は専門ではないのにやたらにマスコミに登場している上昌広・医療ガバナンス研究所理事長らの発言を念頭に置いているとみられる。
岡田氏は、27日にテレビ朝日系「モーニングショー」に出演した際、感染研がPCR調査を民間に拡大することに消極的な理由として、データを独占したいOBがいるからという“爆弾発言”をして波紋が広がった(参照:デイリー新潮、Jcastニュース)。また、上氏もデイリー新潮の取材に「岡田先生のご指摘は、充分にあり得ることだと私も思います」などと同調し、政府への批判を強めている。
2人の“理論的支柱”を得て、テレビでは玉川徹氏らの医学素人コメンテーターが増長。ネット上でも安倍政権のアンチによるPCR検査拡大論が跋扈し、これに「医療崩壊を招く」と反論する感染症の専門医や政権シンパとの論争が過熱している。
こうした状況の中で、声明文では
こうした報道は、緊急事態において、昼夜を問わず粉骨砕身で対応にあたっている本所の職員や関係者を不当に取り扱うのみならず、本所の役割について国民に誤解を与え、迅速な対応が求められる新型コロナウイルス感染症対策への悪影響を及ぼしています。
と現場の士気にあきらかにマイナスになっているとして、怒りをにじませる異例の報道批判を展開した。声明文についてアゴラ執筆陣の藤原かずえ氏は「サンモニやワイドショーのデマ報道に対して、ついに国立感染症研究所がキレたようです」と指摘していた。
感染研の猛反論を受け、日刊ゲンダイなどの反安倍メディア、ワイドショー、岡田氏、上氏らの“にわか売れっ子”コメンテーターがどう対応するか注目される。