休業させるなら学校よりパチンコ屋

池田 信夫

安倍首相は国会で「一斉休校は1918年のスペイン風邪の事例を参考にした」と答弁した。これは感染症の歴史では有名な話で、Forbes日本版によると、

セントルイス市長は「現在市でスペイン風邪が発生しはじめました。そして大流行になりつつあります。全ての劇場、学校、ホール、酒場、民宿、ダンスホールは次のアナウンスがあるまで閉鎖します。集会も日曜学校も禁止です」と発表した。

その結果、住民の接触を制限したセントルイスは、次の図のように、行政が何も介入しなかったフィラデルフィアに比べて、死者を1/8以下におさえることができた。これを教訓として、感染症の初期には人々の接触を制限することが常識になった。

その意味では今までの日本の政策は基本的に正しいのだが、公共施設を政府がすべて閉鎖することは現代ではむずかしい。そのため経済的な影響の少ない学校だけを閉鎖するというのが安倍首相の判断だろうが、これは優先順位が違う。

季節性インフルエンザでは、次の図のように15歳以下の罹患率が非常に高いため、児童の10%が欠席したら学級閉鎖などの措置をとる。安倍首相にも、そういうイメージがあったのだろうが、新型コロナはまったく違う。

新型コロナの死者は70歳以上に集中している

WHOの報告書によれば、中国の新型コロナ感染者のうち、18歳以下は2.4%。そのほとんどは大人から子供に感染したもので、その逆は確認されていない。死者は基礎疾患をもつ高齢者に集中している。

感染症の対策で重要なのは、感染そのものより死者を減らすことである。風邪を引くこと自体は大した問題ではなく、季節性インフルエンザのデータでもわかるように、免疫力の高い子供の致死率は低い。

日本国内でも死者6人のうち70代が2人、80代が4人であり、一斉休校で死者を減らす効果は期待できない。死者を減らす上で有効なのは高齢者の接触制限である

では高齢者の集まる場所はどこだろうか。統計情報開発センターの調査によれば、高齢者の活動規模は次の図のようになっている。

このうち不特定多数の集まる閉鎖空間で行われるのは、パチンコ・カラオケ・劇場である。特にパチンコ屋は空気が悪く、感染を拡大する「ハブ」になりやすい。2月18日には和歌山県で1人、パチンコ屋に立ち寄った人が新型コロナに感染している。

したがって優先順位としては、学校よりパチンコ屋を閉鎖したほうが死亡リスクを減らせる。パチンコ屋は風俗営業法の対象なので、警察が営業中止の勧告を出すこともでき、経済的な影響も大きくない。

私は法的根拠のない経済活動の自粛には反対だが、多くの公共施設を広く自粛させるより、警察が風営法にもとづいてパチンコ屋一時的に休業させるほうが実害が少なく、一斉休校より費用対効果が高い。今からでも対策を考え直すべきだ。