キヤノン御手洗氏の時代錯誤:「終身雇用」と「正社員」が日本を滅ぼす

長井 利尚

はむぱん/写真AC:編集部

2020年2月3日、カメラ映像機器工業会は、2020年のデジタルカメラ世界総出荷台数が約1167万台になる見通しであることを発表した。2019年比23.3%の減少となる。ピークだった2010年の約1億2146万台から10分の1未満に激減するというのだから衝撃的だ。

2020年の出荷額は、ピークだった2008年の約2兆1640億円の4分の1以下になるものと予想されており、高級機種へのシフトも功を奏しているとは言い難い。多くのカメラメーカー(ほとんどが日本企業)が、市場から「No」を突きつけられているのは間違いない。

デジタルカメラが売れなくなったとはいえ、人々が写真や動画を撮らなくなったわけではない。むしろ、昔よりたくさん撮るようになったのではないか。今では、高性能化が著しいカメラ機能を備えたスマホを、多くの人が持っているのだから。

2019年のスマホの世界総出荷台数は約13億7100万台となった。2018年の約14億260万台に比べれば若干減少しているが、2015年から14億台前後で高止まりしている。2009年までは、2億台に届かなかったのだから、いかにスマホが短期間に私たちの生活に浸透し、多くの人にとって、写真や動画を撮るためのファーストチョイスになっていったかがよく理解できる。

存亡の危機に直面しているとみられる、時代遅れの一眼レフのツートップ・ニコン、キヤノンと、彼らをディスラプトする勢いのソニーの違いを見てみよう。

ソニーはデジタルカメラやスマホのキーデバイスであるイメージセンサーの世界シェアがダントツの世界一である。世界シェア上位のスマホメーカーに製品を供給しているだけでなく、シェアは高いとは言えないが自らもスマホを手掛けている。変化が激しく大きいスマホ業界でソニーが生き残っているということは、彼らは、私が前回の記事で紹介したVUCAの時代に生き残るための思考法・OODAループを身につけていると思われる。

ソニーが高速で意思決定を行い、柔軟に動いていることは、2017年に発売されたフルサイズミラーレス一眼の初代旗艦機「α9」発売のプレスリリースを発表後、短期間に3度も改訂を行っていることからもわかる。

キヤノンの御手洗冨士夫CEOは、「長期雇用で安心して仕事に打ち込めれば、その道のプロになれる」と主張し、「終身雇用」にこだわった。変化の遅い時代には、それでも問題が顕在化しなかった。しかし、「終身雇用」が生み出したものは、レベルの低い「正社員」という名の「ノーメンクラトゥーラ」だった。古い体質の日本企業が業績を悪化させ、頻繁に大規模な人員整理を行っていることが、それを証明している。

toshi ba/flickr:編集部

御手洗冨士夫氏は、日本経団連会長時代(2006年5月〜2010年5月)、「雇用の安定」を強く主張してきた。時代錯誤も甚だしいと言わざるを得ない。「ノーメンクラトゥーラ」が跋扈したソ連は崩壊した。諸悪の根源である「正社員」を廃止せず、人材の流動化を進めず、「プロフェッショナル」を増やさなかった日本は、ソ連末期に似た、絶望的な社会になった。

ソニーの中途採用ページを見ると、求職者は、雇用期限の定めのない「終身雇用」だけではなく、「プロジェクト・エンプロイメント・コントラクト社員」という「専門性を活かした領域に特化して会社に貢献し、業務のアサイメントに応じて雇用期間を設定する働き方」を選べることがわかる。このような、「終身雇用」を否定する働き方を前提とする人材の募集は、ニコンでもキヤノンでも確認できなかった。

今は、VUCAの時代なのだから、求職者の多くは「終身雇用」などに期待していないし、「正社員」という名の「ノーメンクラトゥーラ」のみを募集している会社は、全く魅力的ではない。「終身雇用」をなくして人材の流動化を進め、「正社員」をなくして「プロフェッショナル」を増やさないと、日本の貧困化は止まらないだろう。

外部環境の激変に対応し、過去にうまくいったやり方を否定する勇気が、古い体質の日本企業の経営者に求められている。