周知のとおり、デマがきっかけでトイレットペーパーやティッシュペーパーのまとめ買いが横行しています。
3.11のとき、国民への節電の呼びかけが成果をもたらしたように、今回も国家がまとめ買いの抑制を呼び掛ければよいのではないか、と考える方もいるかもしれません。が、それは逆効果になる可能性が高い。同じくトイレットペーパーが店頭から消えてしまったオイルショックを振り返ることで、呼びかけがもたらす負の効果を考えてみたいと思います。
第一は、十月十九日に通産相中曾根が発表した「紙節約の国民運動の呼びかけ」である。この発表の際に、中曾根は、「将来紙不足の深化が予想される」と強調し、過剰包装、折り込み広告、パンフレット、ポスターなどの自粛や、官庁の資料作成の削減などを、具体的な運動目標として掲げたが、この発表が、それまで業界中心の話だった「紙がなくなる」という危機感を一般国民の間まで浸透させた。
第二は、スーパーマーケットの安売りが果たした逆効果である。(中略)次第に客が買いだめる気配が見えてきたので、十月二十四日から各店のトイレットペーパー売り場に、「一人一個に願います」という張り紙を出した。
その張り紙は、かえって客に買い焦りの気持ちを起こさせた。そして、「九十八円のトイレットペーパーが買えなくなる」という意識が、いつのまにか「トイレットペーパーが買えなくなる」という不安感に代わり、主婦を他の店に走らせることになったのである。
(柳田邦男著「狼がやってきた日」文藝春秋、1982年)
トイレットペーパーが店頭から姿を消したことは、すでに一般国民に広く浸透していますので、今回とは状況が異なります。
しかし、国家がまとめ買いの抑制を呼びかけるということは、国家が品不足を認め、そして深刻に受け止めていると解釈できるため、結果として国民に危機感をもたらしてしまい購入が加速するであろうことは、現在においても同様でしょう。
蓄電という例外はさておき、基本的には家庭で蓄積ができない電気と、それが可能になってしまうトイレットペーパーでは、国家による呼びかけがもたらす効果がまるで違ってしまうわけです。
今回の件について、国家があれこれと呼びかけるべきではないと思います。
また、小売店が1人1個の方針を打ち出すのは仕方がないとしても、それを顧客に伝える方法に気配りをする必要性も理解できます。引用文のとおり、店側が全く意図していなくとも、客に焦燥感を与えてしまうような張り紙をしてしまっては、購入の抑制を目的とした張り紙は逆効果です。
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本稿のテーマとは無関係ですが、今回の休校は夏休みの前倒しとなる可能性が高いことを、来年受験する中高生たちは、いったいどれほど認識しているでしょうか。受験生にとって大変重要な夏休みが、予期せぬタイミングでいきなり訪れてしまったわけです。
夏休みから受験勉強を本格的に始めよう、なんていう計画はすでに破綻しています。友達と遊ぶ計画を立てる前に、至急、勉強計画の作成を急ぐべきだ、と呼びかけたいと思います。