監査等委員会の眠りを覚ます改正会社法の「取締役報酬規制」

一昨日(3月3日)、某会計専門誌が「監査等委員会設置会社に関する特集記事を掲載する」ということで、当職が取材を受けました。この2月時点で監査等委員会設置会社は1020社に上るそうで、上場会社の3割が「監査役さんがいない会社(監査役会が存在しない会社)」になったのですね。もはや取締役監査等委員の方々も「少数派」とは言えない時代になりました。

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ところで、取材の際には話題になりませんでしたが、このたびの令和元年会社法改正(おそらく2021年4月か5月に、一部項目を除き施行予定)の主要改正項目に「取締役の報酬規制」があります。

上場会社の場合、金銭報酬については個人別報酬の内容に関する決定方針を取締役会で決定し、株式や新株予約権による報酬についてはその数の上限や政省令で定める事項について株主総会で決議をする、ということになります。さらに株主総会前に開示される「事業報告」には代表取締役への再一任の方法を含む重要事項について記載する必要があります。

会社法制(企業統治等関係)部会の神田秀樹座長が「今回の改正の目的は、今まで形式的だった報酬ルールの改善」とおっしゃるとおり(「企業会計」2020年3月号95頁)、報酬規制の目的が「お手盛り防止」(経営陣が勝手に高額報酬を決めることを防ぐ)から「インセンティブ付与」「監督機能の促進」へと移るわけです。報酬規制に関する会社法361条の条文も大きく変わり、定時株主総会で、報酬に関する議案が上程される頻度も高くなることが予想されます。

そこで問題となるのが監査等委員会の「経営評価機能」の発揮です。監査等委員会は、監査等委員ではない取締役の報酬に関する議案が総会に上程された場合には、(選定監査等委員を通じて)委員会としての意見を陳述する権利があります(会社法361条6項、同399条の2、3項3号 なお、意見陳述義務はありません)。もちろん、総会に報酬議案が上程されずとも、意見を述べることができるというのが通説的見解ですが、このたびの会社法改正によって、報酬議案が上程される頻度が高まれば、どうしても監査等委員会の意見陳述権に光が当たります。

これまで、会社法上の取締役報酬規制は「形式的なルール」でしたから、監査等委員会の報酬に関する意見形成職務は(ほとんど)問題になりませんでした。

しかし、報酬規制がインセンティブ付与、監督機能の充実にあるとすれば「当社の報酬制度が取締役のインセンティブとして妥当なのか」「当社の個別取締役の報酬決定方針に問題はないのか」「社長に再一任している報酬決定が、当社決定方針に合致しているといえるのはなぜか」「当社の任意の報酬委員会と監査等委員会との関係に問題はないのか」「譲渡制限付き株式は、なぜ一部の取締役にだけ報酬として付与されるのか」「監査等委員である取締役にも業績連動報酬が付与されるのは妥当ではないと思うが、どう考えているのか」等々、株主の方々には様々な疑問が湧いてきて当然かと思われます。

さらに、定時株主総会の前に、株主の目に留まる「事業報告」には詳細な役員報酬に関する事項が記載されることになります(詳細は、政省令よって決まります)。おそらく監査等委員の皆様に対して、(事前に事業報告を読んできた)出席株主から意見陳述権の行使を促す質問が飛んでくるのではないでしょうか。当然、意見陳述義務はありませんが、職務としての「意見形成義務」はありますから、質問されれば改正法の趣旨に沿った合理的な説明をしなければなりません(おそらく回答するのは常勤の監査等委員の方だと思います)。

平成26年改正会社法で生まれた監査等委員会設置会社ですが、このたびの令和元年会社法改正によって、いよいよ監査等委員会の「指名」「報酬」に関する意見陳述権が長い眠りから覚めるのではないかと期待しております。先日、武田薬品工業は、役員の業績連動報酬部分にクロ―バック条項を導入することを決めたそうですが、それは昨年の株主提案への賛成票が52%集まった結果に配慮したものです。

このような株主による報酬監視を補完する(情報を提供する)機能こそ、監査等委員会の意見陳述権の役割なのです(平成26年改正法の立案担当者の解説)。令和元年会社法改正により、報酬規制が形式から実質へと移行する中で、監査等委員会の意見陳述権は、もはや「抜かずの宝刀」では済まされないはずです。

平成26年会社法改正の折、当時の改正法立案担当者のご説明では「監査等委員会設置会社は、指名委員会等設置会社への移行過程にある機関設計」(残念ながら1020社のうち、まだ1社も移行した上場会社はありませんが)、「監査役会設置会社と制度間競争を期待している新たな制度」と語られていたことを記憶しています。私はそのような制度であるならば、監査等委員会の取締役人事、報酬への意見陳述権の積極的な行使が今こそ求められていると考えています。


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2020年3月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。