テレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」に対し、厚生労働省と内閣官房感染症対策室がツイッターで反論。「政府による報道への圧力でないか」との指摘もなされている。
まず、原則論として、不正確な報道がなされたとき、当事者が「反論」して訂正を求めるのは当然だと思う。これは、個人や企業でも、政府や政党でも同じだ。特に、政府の施策に関する誤報は、社会に混乱・悪影響をもたらすこともある。こうしたとき、反論は政府の責務でさえある。
ただ、問題は、政府や政党など権力者の「反論」は、「圧力」と紙一重であることだ。政治家がテレビ局幹部を呼び出して抗議するなど、過去にも問題になった事例があった。
最近では、日本郵政がNHKに圧力をかけた事案もそうだ。日本郵政は民営化されているので政府ではないが、圧力を主導したのは前・総務事務次官の副社長(当時)。のちに表面化した「かんぽ不正」を取材していたNHKに対し、強硬に抗議した。日本郵政としては反論したい点があったのかもしれないが、結果からみれば、暗部の隠ぺいを図る圧力そのものだった。
こうした事例と比べ、今回の特徴は、ツイッターというオープンな場で発信がなされたことだ。これはとても良いと思う。
不当な圧力行使は一般に、密室でなされることが多い。密室だから、無理も通る。
これに対し、公衆の面前ならば、正当な反論か不当な圧力か、誰もがすぐ検証できる。健全な反論手法と評価してよいと思う。
そのうえで、今回の「反論」ツイートを検証してみる。結論からいうと、ツイッターという手法はよかったが、内容は問題ありだと思う。
その前にまず前提として。3月4日「羽鳥慎一モーニングショー」では、「政府は、北海道の世帯にマスクを配る一方、医療機関のマスク不足には対応していない」との内容を伝えていた。実際には、厚生労働省は2月25日に医療機関向けの優先供給の仕組みを作り(参照:厚労省リリース)、取組を始めていたから、この点で不正確、ないし少なくとも誤解を招く内容だった。
(なお、正確に補足しておくと、
・番組では、厚労省への取材結果として「医療機関へは先週から動いている」とのコメントを紹介している。
・しかし、その詳細は触れられないまま、「医療機関向けは対応していない」との文脈で話が展開され、
・これを受け、専門家が「まずは医療機関に配らなければだめです」とコメントした。このコメントは、厚労省の対応を知っていたはずの専門家としては正確性を欠いていた。)
これに対し、厚労省が反論したこと自体は、適切な対応だ。
しかし、反論の内容が全くなっていないと思う。この場面で、厚労省がなすべき最も大事なことが欠けているからだ。
私が思うに、ここで最も大事だったのは、「医療機関向けのマスク優先供給」について正確で十分な情報提供を行うこと。それにより、全国の医療関係者・国民に「厚労省はちゃんと対応してくれている」と安心感や見通しを与えることだった。
というのも、そもそも、2月25日以降の対応について、厚労省の周知は足りていなかった。このため、番組でも報じられたとおり、医療関係者の多くが「マスクがいつ供給されるのかわからない」と不安を高める事態になっていた。ここが、問題の根幹だった。
ところが、厚労省の3月5日のツイートでは、「厚生労働省では、感染症指定医療機関への医療用マスクの優先供給を行った」などとぶっきら棒に述べるだけ。十分な情報提供とは程遠かった。(ツイッターは字数制限があるが、より詳細な情報提供を行うURLにリンクをつけるなど、やり様はいくらでもあったはずだ。)
しかも、文面が言葉足らずで、不正確との再反論(「優先供給を行った」は一部に過ぎない等)まで招いた。これでは、安心感を与えるどころか、逆効果にさえなってしまう。政府の対応として、残念ながら不適切と言わざるを得ない。
もちろん、厚労省にケチをつけるのが本意ではない。担当者らが連日緊急対応に追われており、その中で批判を受ければ「そんなことはわかっている!」「やっている!」と腹立つこともよくわかる。しかし、そうした局面だからこそ、批判も冷静に受け止め、国民のために最善の情報発信をしてほしい。
念のためながら、私は反論内容にはケチをつけたが、「政府が反論するのは言論弾圧」といった主張には一切与しない。反論は大いに結構だ。だが、反論するなら、ちゃんと反論すべきだ。
ちゃんとした批判とちゃんとした反論は、政府の対応とマスコミ報道の双方をレベルアップさせる。今後もオープンな場で、より質の高い応酬を続けてほしい。
(この記事は、オンラインサロン「情報検証研究所β版」内での意見交換も経て、筆者の責任で公開するものです。)