「いつまで続くこの下落?」と聞かれて答えられる人がいたらそれは預言者か過去のデータをベースに語る分析者か、希望的観測を述べる何の根拠もない予想でしかないでしょう。しかし、止まない嵐はないという言葉もあります。冷静にわかる範囲で考えてみましょう。
NY株式市場 過去最大2000ドル超下落 売買の一時自動停止も #nhk_news https://t.co/i7ytGL8OVu
— NHKニュース (@nhk_news) March 9, 2020
今回の下落はいわゆる連鎖が引き起こしたものであります。新型肺炎問題が世界中に拡散する中、原油の生産量に関してOPECとロシアの協調減産ができなかったことで引き金を引いたものであります。原油が下がると何が困る、と特に日本の方は疑問を持つと思います。原油を産出している国は世界のあちらこちらにあります。アメリカ、カナダ、英国を含め、事業ベースになっているのは世界に50カ国近くあります。それらの国は何らかの形で原油事業を通じた社会基盤ができているわけでこれが根本から崩れるわけです。
例えば今回の暴落で世界最大の産油会社アラムコの株価は昨年のIPOを下回る30リアルをつけてしまいました。もともとサウジアラビアはアラムコの上場を通じて同国の財政再建を図る計画であったわけでアラムコ株は操作してでも高値を維持したいぐらいのつもりでした。が、ムハンマド皇太子の無謀な価格競争突入宣言で国富がぶっ飛んでいるのです。当然、ロシアも同様であり、国家財政が持たなくなる状態になる国が出てくると思われます。
今回の問題はOPECとロシアが再度、テーブルにつき、緊急対策を立て、減産で合意すればよいだけの話です。これができれば「あれは何だったのか?」という形になります。ただ、よく考えてみると、なぜ原油価格は統制されているのでしょうか?つまり、需要と供給に任せた自由市場ではないのでしょうか?これは石油は有限であり、かつ全ての人の生活に密着しているという前提に立ち、価格を統制することで70年代の石油ショックのようなことが再び起きることを防ぐ、という意味合いがあるのでしょう。
ところが、近年になり、代替エネルギーが至る所で考え出されると同時にCO2削減が社会の中で当たり前になり、自動車は電気自動車の本格普及期が目先に迫ってきています。つまり、原油依存型の社会から我々は徐々ではありますが、脱却しつつあるのに一部の国家は原油を国家経済の柱として体質改善できていなかった問題であるともいえます。とすれば石油の価格統制がなくなる前兆(原油版のプラザ合意のようなもの)と考えてもおかしくはないのでしょう。
さて、今回の株価暴落と円高は新型肺炎に端を発し、サウジとロシアの醜い争いが背中を押しました。これで世界経済の体力は相当落ちているはずで、次に何がトリガー(引き金)となるのか、戦々恐々というところであります。さしずめ、新興国のクレジットクランチは可能性としてはあり得るかもしれません。そして新型肺炎の御三家がイタリア、韓国、イランというのも偶然の一致なのでしょうか?
ただ、新型肺炎も有期の問題であり、さほど遠くない時期には終息に向かうとみるべきでそれまでに世界経済が壊れないよう、必死に支える手段を講じるべきです。それは政府であり、中央銀行でありますが、今のところ、ほとんど対策が打ち出されてこないのは世界が協調できていないともいえるのでしょう。
アメリカをはじめ、中銀の対策=金利引き下げという馬鹿の一つ覚えのようになっているところにも中銀そのものの金融政策の行き詰まりを見てしまうのです。1-2年前にマネタリストの時代は終わていると私は申し上げたのですが、それから何も進歩はなかったということでしょう。今、ここでこの議論を出してもしょうがないのですが、最大の問題は有効な対策がない、ということであります。
新型肺炎の治療薬がないように経済の病気にも治療薬がないという恐ろしい事態を迎えているというのが私の感じるところであります。薬がなければ寝て待つしかないわけで自然治癒を期待するのでしょうか?
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年3月10日の記事より転載させていただきました。