続続・新型コロナウイルス雑感

北尾 吉孝

先日、米国人の友達と電話していたところ、コロナウイルスの話になりました。先方は、「日本で患者数が少ないのは検査していないからだ」と言っていました。確かに検査をしたら患者数は、もっと増えるだろうと思います。しかし、ある意味検査していないところが良い面もあるような気もします。即ち、「指定感染症」のままで検査数を大幅に増やすと患者数が余りにも増え医療現場の崩壊は必ず起こることであって、入院の必要のない軽症者が8割以上と圧倒的であり、そうした患者の入院でキャパがオーバーし、重症患者が十分な治療を受けられないということになり易いからです。

唯、その時私は彼に次のように言いました――貴方の国はインフルエンザでも1万人以上の死者が出ている、と聞いている。日本は今年、物凄くインフルエンザになる人が少ない。小生のかかりつけ医は、「今年は商売あがったりです。インフルエンザだとかで病院に来る人がいません」と言っていた。我国は世界に冠たる国民皆保険制度の下、インフルエンザのワクチンが結構打たれていることも、その理由の一つかもしれない。だが最大の理由は、今回のコロナウイルスのため街でも会社でも、殆どの人がマスクをし何度も手を洗った上にアルコール消毒もやるといった、ある面で日本人特有かもしれない徹底した清潔意識が国民全体に浸透している、ということが言えるのではないか。

人類の健康増進に寄与したものを3つ挙げよと問われれば、私は「石鹸」「抗生物質」「ステロイド」と答えます。やはり清潔さを保つことが、非常に初歩的な話でありますが最も大事なのです。私自身10年以上海外に住み世界100カ国位を旅してきましたが、日本人ほど身綺麗な民族は存在しないような気がします。殆どの人がシャワーだけでなく、毎日のように風呂に入るわけです。江戸時代でも銭湯というのは、大変ポピュラーでありました。昔から日本人は身を清潔にするというところに優れていた。一つの民族性とも思える位の潔癖性がある部分を有していたのです。

日本でインフルエンザの流行が例年に比して殆どなかったということは、同じようにコロナウイルスの方も余り拡散していないと思われます。人口割にすると現在の人数など微々たるものです。日本人の民族性とも言える長年培われた身綺麗にするという習慣が、今回大いに寄与しているのではないかと思っています。

私は嘗て、拙著『日本人の底力』(PHP研究所)で「まえがき」にこう記しました――今回の大震災で世界中の人たちが混乱の中で示される日本人の忍耐と寛容の精神、助け合いと同胞意識の強さ、任務のために勇気を振り絞り決死の覚悟で原発に放水する消防庁や自衛隊の人たちの姿等々に心を打たれています。日本人はこの崇高(けだかく尊いこと)な精神を脈々と受け継いでいるのです。

東日本大震災から9年が過ぎて、今回このコロナウイルス騒動でもある意味また新たな日本人特有の民族性を世界に示すことが出来るのではないか、と思っています。即ち、国が決めた事柄を国民全体できちっと守ろうとする忍耐の精神と自制心の強さ、そして国・組織・家族・自分自身を守ろうとする非常に強い精神の類が、世界に示されることでしょう。

上記のことと日本食の良さが相俟って、日本人の平均寿命は先進諸国の中でも圧倒的に長いという現実があります。中国の最近のレポートに拠れば、死亡率は高血圧を患っている人が高いようです。日本では循環器系疾患に係る持病を持った高齢者の割合が相対的に少ないということが、「なぜ日本は他国に比べ極端に死亡者が少ないのか?」に対する答えの一つになりましょう。

さて、今回の騒動の中で良いレガシーになりそうなことも生まれてきました。それはリモートワークの浸透です。また、満員電車・通勤ラッシュ等々のこれまでの長きに亘る習慣がなくなり、時差出勤といったものが定着したら良いと思っています。更に私どものビジネスからすれば、インターネットで様々な金融商品・サービスを提供するというようなこと、あるいはeコマースで物を売買するといったことが、益々盛んになるのではないかと見ています。之は、ある意味キャッシュレス化にも浸透して行き、ネット決済する時代に急速に移るトリガーになって行くように思います。

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