いつも当ブログをお読みいただき、ありがとうございます。さて、当ブログの2月17日付けエントリー「会計不正事件の王道「架空循環取引」は増えることはあっても、減ることはない」では、ネットワンシステムズ社(NOS社)を中心とした架空循環取引について取り上げましたが、そこにある方(某氏=私が勝手に関係者と思っている方)からコメントをいただきました。
後日、この方の了解を得て、以下にコメント内容を掲載いたします。なおコメント内容は、(コメントされた方や関係会社にご迷惑がかからないように)当ブログへのコメントとして許容できる範囲で修正させていただきました。また、このエントリーは、けっして関係会社を非難したり、揶揄するためにコメントを掲載するものではありません。
(2月17日エントリーでも述べておりますとおり)どこの会社でも架空循環取引は起こりうることから、講学上、他社にも参考になるものと考えご紹介する次第です。
実は、「なるほど」と参考になる深い内容もあったのですが、関係会社の信用問題、またコメントされた方が(関係者かどうかは不明ですが)特定されるおそれもあったため、省略しております。あくまでも公表された第三者委員会報告書および当職エントリーへの某氏のコメント、としてお読みください
(以下、某氏のコメントです)
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第三者報告書の中間報告に目を通した。不正は「公共営業部門のシニアマネージャー(課長級)A氏が全ての指示役であり単独犯」、「大きな失注をリカバーするために始めた」と記される。個人的動機による個人による不正である、との見解は、2013年の十六銀行事件同様である。第三者委員会による調査、報告である点は厳に留意すべきであり、溜飲下げたステークホルダーも少なくないかもしれない。以下に強く印象が残った。
A氏=不正首謀者(課長)、B・C・D・E氏=不正補助者(課員)、貴社=NOS
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(カ) 監査対応等の発覚防止工作
A 氏は、前述の見積明細作成の指示を受けて、事前に金額が決まっていることや顧客と向き合うはずの営業担当者が認識していない案件の存在について疑問を抱く部下らに対し、事実関係を明らかにせず、あるいは叱責して質問をさせないなどの対応をとっていた。
例えば、A 氏は、B 氏に対しては、「先にお金が必要なお客様がいる。お金を先に払う代わりに、利子がついて返ってくるというビジネスで、悪いことはやっていない。」などと説明し、D 氏に対しては「銀行がお金を回す必要があってこのような取引があり、悪いことをやっているわけではない。」などと説明し、そのようなビジネスもあると思わせ、従わせていた。
E 氏に対しては、納得できる回答をせずに「とにかく急ぎの案件である。」と述べ、指示に従わせていた。さらに、C 氏に対しては「お前疑っているのか。」と叱責し、それ以上の質問を受け付けずに指示に従わせていた。
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(エ)A氏による上長らへの報告、説明
貴社においては、見積金額が貴社社内規程所定の基準以上の案件について、受注先(顧客)に見積書を提出するには、事業本部長の決裁を得る必要があるが、それに先立ち、部下が上長らに対し、来期の案件の見通し等につき説明を行う場が設けられている。
A 氏は、上長ら(本部長、副本部長、部長及び副部長)に対し、実在する案件に架空取引を織り交ぜた来期の見込みを巧みに説明していた。かかる上長らへの説明は、多くの案件では営業担当者が行うが、本不正行為に係る案件については、営業担当者でなく、マネージャーである A 氏が単独で行っていた。
A 氏は、その後、具体的に架空の商流取引に係る顧客宛ての見積書を提出するに先立ち、営業担当者ではなく自ら、上長らに対し、順次、上記の事前説明に沿って、当該架空商流取引の背景事情や商流、粗利率、入出金の予定等を資料に基づいて説明し、上記管理職らをして実体のある商流取引であると信じさせ、決裁を得ていた。
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報告書に記載された事実認定をまとめると、重要なのは以下の2点。
(1)「国税指摘以前より、A氏部下4名から不安、不審の声が上がっていたこと」
(2)「A氏案件は、承認手続において例外対応を続けていたこと(全ての案件説明に営業担当者を同席させずA氏のみ単独実施)」
5年以上続けたA氏の狡猾さとともに、上記2点には疑問も残る。
「客先注文書の偽造、捏造という誰もが疑いようのない不正行為を指示、命令され、部内で騒ぎになっていないのはなぜか?」、「部下4名は不安不審を訴えていたとあるが、上長は対応したのか?課長の否定、叱責が続けば、部長に相談するであろう。部長は上長や監査室、コンプライアンス室に相談可能なはず。現場の信頼関係は崩壊していたのか?」、「案件承認制度、社内監査は、たった一名の悪意ある営業にこれほど無力なのであれば、現場の対応で防ぎようがない。今後、どうやって不正を防ぐの?」社内の動揺は小さくないであろう。
他部門においても何らかの不作為、不正が行われているのではないか、自分の周囲を信用できなくなった、現場には声にしない声、疑念未満の不安が起きても不思議はない。不審のコストほど高いものはない。
十六銀行事件で不正の温床となったのは、機器調達になくコンサル、設計、構築といった実役務費用、科目にあり、外注費用の操作による不正と解明された。本件(十六銀行事件)の第三者委員会報告書を丁寧に読むと、このような古典的かつ典型的な手法が7年も見過ごされ続けたことに驚く。
その根因を察するに、不正実行者は本部長という上級幹部であり、高い社内評価が「特別感」「不可侵感」となり、不正を拡大、長期化させたように見受けられる。今回の件のA氏は課長級であるが、自身で演出した「秘匿」感や高業績が一種の不可侵になっていた可能性はあるだろう。
素直に考えれば、中央省庁に向けた営業部署という性質上、公示入札案件の対応が本来主業務であろう。プライムで応ずるか、他社スキームの下に入るケースも多いと考えられる。A氏はもっともらしい虚偽を重ね、承認審査に対応していた光景が指摘されている。個人情報保護法や特定秘密保護法の対応を持ち出し「情報共有しない」盾としたのだろう。個人情報や機密情報に関わる取引は存在するだろうが、専用仕様に基づく機器、ソフトウェアは随意契約による製造元への直接受注が常套であろうし、NOSが介入する余地は考えにくい。
報告書では、A氏しか知りえぬ案件や、案件詳細を担当営業さえ知ることができない状態が、社内でまかり通っていたと読めるが、これが日常光景であるならば「秘匿」を通り越し、「不可侵感」が漂ってきそうだ。極めて不自然な状態を5年以上放置した上長、強化してきた承認制度の「不備をつかれた」と経営者は一言で表したが、何の「不備」だったのだろうか。
本件の理解にあたり、IT業界の特異性、公共案件の特殊性、秘匿性などディテールに目を奪われがちだが、前述(1)および(2)より見えてくる光景は、日常業務での機能不全、不作為を予想させる。
(1)、(2)といった「社内における不正未満の例外、異常」が、部内、本部内、監査室、コンプライアンス室と正しく報告、上申されていれば、注視、精視は継続的に実施され、不正を自主的に発見すらできた可能性もある。仮に発見できなくとも、その報告、対応こそがコンプライアンス、ガバナンスの第一歩、必要要件であるはずだ。
(1)、(2)の放置があったとすれば、上長に留まらず、掌握取締役や常勤監査役に善管注意義務違反すら疑われるのではないか。当たり前のことが当たり前に行われない代償はこれほどに大きい。
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以下、某氏のコメントは(下)に続きます。
コロナ・ショックにより、NOS社が開発するテレワーク・ICTネットワークソリューションの重要性を改めて認識します。ぜひとも、今回の不祥事を契機として健全な組織風土が醸成されることを祈念いたします。
編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2020年3月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。