ハーヴェイ・ワインスタインの上訴
3月11日、ワインスタイン被告の量刑は23年となったが、弁護団は上訴するという。「最強の無罪請負人」ハーバード大学名誉教授アラン・ダーショウィッツ弁護士が登場するかに注目。
1994年、アメリカンフットボールのスーパースター”O.J.”シンプソンは、元妻と友人殺害容疑で起訴され、翌年無罪。ダーショウィッツ弁護士は、「ドリームチーム」弁護団の一員だった(四宮啓『O.J.シンプソンはなぜ無罪になったか』107頁)。
フォン・ビューロー事件
デンマーク系英国貴族クラウス・フォン・ビューローは、1982年、裕福な米国人妻マーサをインシュリン注射で殺害しようとしたとして、30年の刑を宣告された。「フォン・ビューロー事件と私の関係は、陪審員がその有罪評決を下した数週間後に始まった」(ダーショウィッツ/中川法江訳『運命の逆転』19頁)。1985年に無罪となるまでを出版、映画化。ビューロー役のジェレミー・アイアンズ(今年のベルリン映画祭審査委員長)は、アカデミー主演男優賞。「最強の無罪請負人」として、シンプソン裁判に登場。
トランプ弾劾を弁護
民主党支持だが、上院弾劾裁判ではトランプを擁護(Dershowitz, The Case Against The Democratic House Impeaching Trump, 2019)。検事役の民主党下院議員やマスコミも猛反発、「なぜ彼は悪人を弁護するのか」。
メーガン・マケイン(故マケイン上院議員の娘)の発言
ABCテレビの番組で、皆がダーショウィッツを嘲笑する中、「彼は、『シリアルキラー』のO.J.シンプソンを助けたでしょう。かなり良い弁護士に違いない、笑う相手じゃないわ」、もっとも「シンプソンは有罪だったと思うけど」。
絶望した者の守護聖人
1975年、高齢者虐待が疑われるニューヨークの介護施設経営者による健康保険詐欺事件を引き受け、「司法取引」不調。NY市民に極めて不評で、新約聖書十二使徒の「聖ユダ・タダイ」(裏切者のユダとは別人)になぞらえ、「絶望的な事件の守護聖人」と皮肉られた。
「悪魔の弁護人」
ニューヨーカー誌は彼の長い「弁護リスト」を掲げ、「自分の役割は、(議論喚起のため)『悪魔の弁護人』を演じることだ」という言葉を紹介。
タイソン、エプスタイン、ワインスタイン
1993年、レイプ事件でヘビー級ボクシング世界王者マイク・タイソンを弁護、控訴裁判所は有罪判決を支持しタイソンは服役した。深夜ホテルの部屋に招かれた18歳のミス・ブラックアメリカ候補の事件である。2年前の1991年、ジョン・F・ケネディの甥ウィリアム・ケネディ・スミスは、ファミリーの地所を案内してほしいという女性のレイプ容疑で起訴されたが、陪審は無罪評決を下していた。ダーショウィッツはケネディの弁護人ではなかったが、「無罪推定」と「同意の有無」を盛んに取り上げていた。
房内自殺とされる性的人身売買容疑者ジェフリー・エプスタイン事件では、2008年、「司法取引」をまとめ寛刑にしたのが仇となり、その後の被害者を増やした。彼自身も共犯として被害女性に訴えられた(Dershowitz, Guilt by Accusation, 2019)。「なぜエプスタインのようなクライアントを弁護するのか」には、罪なき人々が裁判にかけられないよう罪人を弁護するのであり、それが「公正な法体系」への道だという。この時点で、15件の殺人(未遂)事件中13件無罪に。
ワインスタイン事件では、「人身売買被害者保護法」違反で、関連会社と役員、ワインスタイン自身が訴えられた民事裁判のみ関与してきた。フォン・ビューロー事件同様、上訴段階で刑事弁護人となるだろうか。フォン・ビューローは、昨年5月、92歳で死去。マーサは、昏睡のまま2008年に亡くなっている。
イタリアのコロナ流行にマフィアの影
「なぜイタリアか」、かつて伊ジャーナリストがまとめた世界的ベストセラーは、マフィア「カモッラ」が支配するナポリ港で、クレーンにつり上げられた冷凍コンテナの扉が開き、故国へ返される中国人労働者の遺体が降ってくる衝撃シーンで幕を開ける(サヴィアーノ/大久保昭男訳『死都ゴモラ』2008)。イタリアンブランドに不可欠の労働力だ。
モンタルバーノ警部
イタリアでは、連立与党民主党ジンガレッティ党首(コロナ禍で最高視聴率TVシリーズ「シチリアの人情刑事」俳優の弟)まで検査陽性で自宅待機。野党「同盟(レガ)」サルヴィーニ元内相の警護官も陽性。内相時代に難民を厳しく扱った「グレゴレッティ号」事件で、裁判のため上院で議員特権を剥奪された。だが裁判となれば、同党上院議員ジュリア・ボンジョルノ弁護士(元行政相にして、「最強の無罪請負人」)がついている。
「法廷のプリンセス」
パレルモ出身の彼女は、弁護士2年目の1993年、ローマ大学教授コッピ弁護士と、地元スバッキ弁護士の下で、アンドレオッティ裁判に参加。冷戦下イタリアの与党キリスト教民主党代表として、元首相はマフィア融和策をとり、カラビニエリ(憲兵隊)幹部や予審判事暗殺、モロ首相誘拐殺人、バチカン銀行事件等に影響を与え、マッタレッラ現大統領の兄シチリア知事暗殺でも、背後で糸を引いた容疑による。
パレルモ裁判からペルージャのジャーナリスト殺害裁判まで、彼女はローマに移り裁判全体を俯瞰し、マフィア証言の矛盾を徹底追及。元首相の信頼絶大で、法廷は彼女に任された。
「無罪、無罪、無罪!」
2004年の最高裁判決時、彼女は廷外に走り出て、アンドレオッティに携帯電話で「無罪」を3連呼した。イタリア全土に放送され、「最強の無罪請負人」となる(Caselli & Forte, La Verita sul Processo Andreotti, 2018)。
検察官は、「無罪じゃなかった」という。最高裁が認めた控訴審判決は、「1980年春まで被告人はコーザ・ノストラと通じ、容疑も認められるが時効。以降は証拠不十分で無罪」というもの。「叫びで判決を書き変えた『司法クーデター』だ」。
スポーツ弁護士
イタリア企業を守護し、有名人の事件も手がける。人気女性歌手ジャンナ・ナンニーニの脱税事件では、歌手周辺に問題があり本人はその責任を負うだけと「司法取引」。多数の有名選手やコーチの八百長・ドーピング疑惑のほか、とりわけ知られるのは「トッティの唾吐き」事件である。
2004年サッカー欧州選手権の試合中、イタリア代表のフランチェスコ・トッティがデンマークのポールセン選手に唾を吐いたシーンが放映された。ビデオを子細に調べ、唾を相手に吐きかけてないと指摘。3日間の出場停止で済ませた。強豪「ユベントス」取締役就任。
英国人女子留学生殺人
ペルージャのメレディス・カーチャー惨殺事件では、主犯と目された米留学生アマンダ・ノックスのボーイフレンドだったイタリア人学生ラファエレ・ソレシトを弁護。ソレシトの無罪で、アマンダも無罪。刑事補償は、「アマンダと共に嘘を重ね、捜査を混乱させた」と、認められなかった。
「赤毛のイルダ」と
ベルルスコーニ裁判でも、元首相お抱え弁護士ゲディーニ上院議員を弁護(「第3次ルビー訴訟」)。イルダ・ボッカシーニ検事と初対決を期待されたが、定年を控えイルダはこの訴訟を担当しなかった。
師弟対決
昨年クリスマス前、ローマの路上で不幸な自動車事故が起きた。16歳の少女カミラとガイアがはねられ即死。高級SUVの運転者20歳の大学生ピエトロ・ジェノヴェーゼ(『おとなの事情(2017年)』公開で来日したパオロ・ジェノヴェーゼ監督の息子)は、アルコールと薬物の影響下にあった。コッピ弁護士が加害者、ボンジョルノ弁護士がガイアの両親を代理。