アイオワ、ニューハンプシャー、ネバダと快進撃を続けていたサンダース候補は、サウスカロライナで躓き、スーパーチューズデーで決定的にバイデンに追い越された。その理由は、一つにはヒラリーの悪意である。
もしサンダースが掲げる国民皆保険的なものが実現したら、今まで彼女に莫大な献金をして来たと言われる製薬業界や民営医療保険の会社が困る。ところが、これらの会社は昨年だけで、サンダースに160万ドルの献金を行なっている。サンダースが大統領になっても自分達が余り困らないようにしてもらうための「保険」だろう。つまり政治資金の奪い合いでしかないのである。
だがバイデンは高齢による極度の「物忘れ」が討論会の度に問題になり、またウクライナ疑惑に関して上院共和党は息子の証人喚問を諦めそうにない。そのためかバイデンの支持率は日に日に低下していた。
しかしサンダースが予備選挙で過半数を取れなければ、党大会での話し合いになる。その場合はサンダースの方がバイデンより代議員を取れていても、特別代議員や2人以外が取った代議員の票でバイデンを大統領候補にすることも出来る。それどころか予備選に出ていなかった人を大統領候補にしても問題ない党則になっているので、ヒラリーが大統領になっても構わないのである。
トランプ氏に負けてから奇矯な言動が多く、明らかに精神のバランスを崩していると思われる彼女なら、そのようなことまで考えていても不思議ではないように思われる。
アイオワ党員集会は投票用アプリの不具合により混乱した。そのためサンダースは実際よりも少ない票しか取れなかったとも言われている。例えば77の投票所で2位と1位が入れ替わった現象は報告されている。また投票管理人の中にもヒラリー派と思われる人が何人もいたという。
何と、この投票用アプリを作った会社シャドー社の幹部達は、ヒラリーの関係者なのだ。この会社の親会社的な存在でワシントンの同じ住所にある公益法人アクロニウムは、トランプ氏落選運動のためと称して、既に数千万ドルを集めている。そしてアクロニウムの代表者は、ブティギッグの関係者と結婚している。
つまりヒラリーとブティギッグの間にはコネクションがあったのである。クロブッチャーもヒラリーの友人で、大統領選挙への出馬も相談しているという。
中道派の候補者を増やし、せめてサンダースに予備選で代議員の過半数を取らせないための、ヒラリーの作戦だったのかも知れない。
しかしウクライナ疑惑が出てから、バイデンは、ますます不利になった。そこでブルームバーグが急に立候補したのだが、その前後に彼がヒラリーと会食している姿が目撃されている。2020年1月にトランプ氏が、ヒラリーは2016年にブルームバーグが無所属で立候補すると票が割れて自分が不利になるので、自分が大統領になったら彼を国務長官にすると約束したという、不思議な発言をしている。そして2月に入って、ブルームバーグがヒラリーを副大統領候補に考えているという噂が全米を駆け巡り、ヒラリーも否定しつつも含みのある発言をしていた。
ブルームバーグを担ぎ出したのもヒラリーだったのかも知れない。
だがアイオワやネバダの党員集会の投票参加者は、4年前と同じくらいでしかなかった。ニューハンプシャーは増えたものの、それは州全体の人口増加プラスαくらいだった。その中にはサンダース支持の若者も多く、そこで彼は快進撃を続けられた。
ところがサウスカロライナから投票参加者が明らかに4年前より絶対的に増えている。スーパーチューズデーが行われた14州では、平均して1.5倍くらいになっている。
バイデンの「奇跡の復活」の原因は、そこにある。黒人の支持だけではない。
なぜ投票参加者が増えたのか?色々なことが考えられるだろう。
ただ私の推測だが、ブティギッグやクロブッチャーが思ったより票が取れなかったことや、カリスマ性に乏しく失言等も多いブルームバーグの不人気等を見た(ヒラリーを含む)民主党の有力者が、やはりバイデンに一本化する方向で、民主党支持者に動員を掛けたのではないか?
そうだとしたら納得いく問題がある。スーパーチューズデーで投票した人々は、古くからの民主党支持者のような、中高年の人(45歳以上)が大部分で、サンダースを支持するような若者は平均して2割未満だった。これではサンダースに不利だ。
しかもサンダースの政策は学費無償化等、既にエリートの白人が、その地位から滑り落ちないようにする側面が強い。それが彼が黒人の支持を得られない理由の一つではないかと思う。
しかし4月以降に予備選挙の行われる州には、まだ白人が多数の州も多い。サンダースがバイデンに逆転できるチャンスはある。
バイデンが過半数を取れるように、ヒラリーその他の民主党有力者は支援を惜しまないだろう。ブルームバーグも莫大な資金を提供すると申し出ている。
だがバイデンには前述のように健康状態(記憶力)やウクライナ疑惑等の問題がある。彼を支持する黒人の多い州の予備選挙は、これから徐々に減って行く。
そこで米国大統領予備選の不思議な性質が意味を持って来る。ブティギッグやクロブッチャー、ブルームバーグやウオーレンが今まで取って来た代議員は、彼らがバイデン(ないしサンダース)を支持しても、バイデン(ないしサンダース)の代議員にはならない。あくまで、この4人の代議員である。約140人程いる。
つまり代議員全体の過半数に、バイデンもサンダースも70人前後くらい足りない状況も考えられる。そうなれば党大会での話し合いである。
その時に使われる集計用アプリ等も、シャドー社が売り込もうとしているとも言われている。更に党大会の役員にもヒラリー派が多く登用されている。これでは、どんな操作をされるか分からない。ヒラリーは、こうして再び大統領への野心を剥き出しにして来るのかも知れない。少なくともサンダースではなくバイデンを大統領にしようとすることは間違いない。
だが、そのような「民主党」に、どれくらいの人が投票するだろうか?アイオワ、ニューハンプシャー、ネバダで投票参加者が少なかったのも、そのような裏の仕掛けに支持者達が無意識的にでも気づき、しらけていたからかも知れない。
ところで共和党も2、3の泡沫候補が立って、トランプ氏を相手に形式的に予備選挙を行なっている。今までの大統領で2期目を目指した人は、だいたい同じことをやっている。
トランプ氏の得票率は、国民的人気者だったレーガンに匹敵するという。やはり今年は、トランプ再選なのであろう。全国レベルでは今のところバイデンが5%ほど上回っているが、バイデンには前述のような問題がある。幾つかの激戦州で僅かな差でも逆転し、2016年と同じ勝ち方をすることも考えられる。
因みに2016年には、サンダース支持者の10%が、トランプ氏に投票した。これを、もっと多い比率に変えれば、バイデンに勝てる可能性も高まる。
サンダースが2月に言い出した格差解消のための税制改革案は、実はトランプ氏も2016年前半に、部分的に似たものを主張していた。しかし共和党の大統領(候補)になったため、共和党主流派に最初は遠慮して実現できなかった。
再選されれば共和党に遠慮は要らない。既にサンダース周辺のまともな人物がトランプ二期目に入閣するという噂もある。トランプ氏による米国と世界の大改造に期待するのは、期待し過ぎというものだろうか?
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吉川 圭一(よしかわ けいいち)グローバル・イッシューズ総合研究所代表取締役
2016年まで 一般社団法人日本安全保障・危機管理学会ワシントン事務所長として、2017年以降は国内をベースに、危機管理省庁設立等の政策提言活動に取り組む。『救世主トランプ—“世界の終末”は起こるか?』など著書多数。