東京オリンピック・パラリンピックの延期が確実となった。感染者数が40万人に到達しつつある世界的な感染の拡大を見れば、延期は致し方ない。しかし、その途端に、いつ開催されるのか、オリンピック代表は再選考かという議論が巻き起こっている。同じニュースでイタリアの惨状を報道しているにも関わらずだ。欧米はそんなことを議論している余裕などないことは明らかだ。
日本では感染の拡大を辛うじて抑えていると報道されているし、何となく日本は大丈夫であるかのようなムードが漂いつつある。しかし、下記の表を見て欲しい。この表は感染者数が1万人を超えている国において、100人、1000人、10000人に達した日を示している。
イタリアは他国(中国は除く)よりも1週間前後早く、100、1000、10000に達している状況がよくわかる。各国において100人が1000人に増える時間は6-9日間、1000人が10000人に達する時間は4-11日間となっている。2週間未満で10倍である。全世界で見ると、1万人が10万人に達するのに約5週間要したが、20万から30万に増加するのに要した期間はわずか3日間である。
大きなイベントの自粛や学校の一斉休校によって、日本の増加率は抑えられていると報道されているが、私もこれらの措置は有効であったと感じている。しかし、PCR検査数は他国に比べて圧倒的に少ない。理由はわからないが、総理大臣や厚生労働大臣の国会で答弁したPCR検査数には遠く及ばないし、WHOの事務局長の「Test, Test, Test」のコメントもどこ吹く風かといった感がある。死亡者数も少ないが、死亡後に検査していて陽性とわかったケースもあるので、疑いのある患者が全て検査を受けているのかどうか、海外からは疑いの目を向けられている。
色々な措置で感染拡大を抑えている(ように見える)かもしれないが、実態がつかめないのが本当のところだ。イタリアの医療崩壊の現状は、ニュースで見る通りだ。ヨーロッパや米国、カナダの様子からは、オリンピックどころではないのだ。米国も厳しい状況なのだが、ニュースで見る、春休みでマイアミに遊びに来ている若者たちにとっては、ニューヨークで起こっていることは他人事のようだった。
帰りがけに目にした夕刊紙の表紙の「首都封鎖」という言葉が衝撃的だった。しかし、3連休の東京近辺の景色はニューヨークとマイアミの混在だった。イタリアやスペイン、そして、ニューヨークの映像は封鎖だ。イタリアの致死率は約10%で、インフルエンザより少し重い感染症では済まされない。われわれの命そのものの危機に直面しているのである。私のように、高齢者で、持病持ちが感染すると致死率が高くなる。
集団感染して、国民の大多数に免疫ができるのを待っているかのような発言をしていた英国のジョンソン首相は、それでは50万人くらいの死者がでるとの予測値を聞き、一転して、家族に会うのも見合わせた方がいいと発言を修正している。「君子は豹変す」だ。経済的な打撃は起こっているが、日本の国内感染者数は1000人を超えている。どこから感染したのかわからない人の割合も増えている。
危機が迫りつつあるのではなく、危機は目の前にある。
編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2020年3月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。