公益通報者保護法改正-対応業務従事者の守秘義務について

昨日に引き続き、手前みそのような話で恐縮ですが、今朝(3月24日)の朝日新聞の経済面「日本郵便の内部通報者探し-コンプラ担当から情報」なる見出し記事に、(首都圏版のみではありますが)私のコメントが掲載されました。

(写真AC:編集部)

ある局長の不正を申告する内部通報を受理した調査担当責任者(コンプライアンス担当)が、「社内調査を行う場合には、被通報者の上司に先に連絡を入れておくこと」という社内慣行に従って上司に連絡を入れたところ、当該上司(関係者)が通報者探しを行ってしまった、という事例です。

私は社内調査における「関係者への事前連絡の危険性」を述べ、もしそのような慣行があるならば、すぐに廃止すべき、通報者保護がなぜ組織にとって重要なのか考え直す時期だとコメントしました。

今国会に公益通報者保護法の改正法案が提出されましたが、そこで第12条として「公益通報対応業務従事者の義務」が規定されています。要は公益通報対応業務従事者は、正当な理由なく通報業務で知り得た事項であって、公益通報者を特定させるものを漏らしてはならない、ということです。

そして、改正法21条により、もし漏らした場合には、当該業務従事者には刑事罰(30万円以下の罰金)が適用されることになりました。

この「公益通報対応業務従事者の守秘義務」および「守秘義務違反への刑事罰適用」は、自民党PTの提言を踏まえて導入された規定です。内部通報や外部通報(内部告発)に対する企業の内部統制の実効性を高めること、および通報者への事業者による不利益取扱いを根絶から防ぐことを目的としています。

会社のコンプライアンス担当者に刑事罰をもって対応する、というのが改正公益通報者保護法の姿勢です。すでに労働安全衛生法では、「健康診断等に関する秘密の保持」として、会社の担当者に社員の健康診断上の秘密を漏えいした場合には刑事罰(1年以下の懲役または50万円以下の罰金)が科される規定がありますので、法制度としてとくに違和感はありません。

よく経済団体の反対を押し切れたものだと思いますが、通報者への事業者からの不利益取扱いを根絶するためには、たとえ調査に困難を要する場面が増えるとしても、通報者を徹底的に守る必要がある、という点が理解されたものと思います。

もちろん(現実的には)調査のために関係者へ事前連絡が必要な場面も想定されますが、「正当な理由」となりうるかどうか慎重な判断が求められます。

今後、冒頭の日本郵便のような事例が発生したとなると、コンプライアンス担当者および犯人探しの実行者(おそらく犯人探しの過程で他人に情報を漏えいすることが予想されます)は会社もしくは別の社員から刑事告訴もしくは告発(おそらく地検への告訴・告発)されることになります(今後は公益通報者保護法自体が公益通報の対象事実になりますが、12条に直罰規定が設けられましたので、違法行為に対しては直ちに検察庁案件になります)。

したがって、事業規模に関係なく、企業としては、今からでも公益通報者保護のための体制作りを徹底しておくべきと考えます。

ちなみに、公益通報者保護法の改正案が成立した場合、公布日から2年の範囲内で、政令で定める日から施行されます。その前に従業員300名以上の事業者に義務付けられる(違反には行政による制裁あり)公益通報対応のための内部統制のガイドラインが策定される予定です。


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2020年3月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。