新型コロナウイルスの感染拡大に伴ってスペインでは企業による社員の一時雇用調整(ERTE)が目立つようになっている。市場が冷却して企業が社員の雇用に必要な売上を維持できなくなっているのが理由だ。
この一時雇用調整というのは社員を一旦解雇するが、市場が回復した時点で企業は再度雇用すると約束されたものをいう。政府が極力避けたいのは企業による完全解雇である。その為に企業に救援金を用意した。
解雇された社員に対し、政府は失業期間中は無期限で給与の7割近くを保障するとした。しかし、問題はこの7割の給与が社員にいつ支給されるのかまだ明確にされていないという点だ。また企業の負担分である社員の社会保障費の25%を負担するとされている。なお企業の社員が50人以下の場合は企業負担の社会保障費は免除される。
政府はこの一時雇用調整は社員の解雇ではないと強調しているが、解雇された側では非常に不安感をもっている。というのも、いつ再雇用されるかかわからないからである。しかも、仮に企業が回復しない場合は完全解雇になる可能性も否定できないからだ。
スペインの2大労働組合のひとつ労働者委員会(CCOO)は一時雇用調整による解雇者は200万人にまで及ぶようになると懸念している。(参照:elpais.com)
現在スペインの失業者は今年1月の時点で325万人と統計されている。因みに、2015年には450万人まで失業者が増えて最悪の事態を招いていた。今回の一時解雇調整でCCOOが見込んでいる失業者200万人を加えると、一時的であれ525万人が職場を失ということになる。スペインの現在の就労人口は2300万人だ。一時的であれ、525万人が失業しているという状態は景気をさらに悪化させるのは必至である。(参照:lavanguardia.com)
実際、この雇用調整は既に開始されている。3月16日の時点でなんと10万人が一時解雇された。その中にはスペインで好調なフォルクスワーゲン傘下の自動車メーカーセアット(SEAT)が14812人の解雇があった。
17日にはアパレル企業アドルフォ・ドミンゲス(Adolfo Dominguez)が順次解雇して5月までに社員の61%に相当する728人を解雇すると発表した。同企業は1970年代に社名になっている創業者が「(服にできる)しわも美しい」と表現して一躍有名になった企業だ。同じくアパレルのリエ・エスパニョラ(Liwe Española)も94%に匹敵する1900人を解雇すると発表した。(参照:cincodias.elpais.com)
ビップス(Vips)、スターバック(Starbuck)、カーニャス・イ・タパス(Cañas y Tapas)などの飲食関係のチェーン店を傘下にもつアルセア(Alsea)は22000人を解雇するとした。バーガーキング(Burger King)は14000人、鉄道関係のカフ(CAF)は4400人、マットレス大手ピコリン(Pikolin)は870人をそれぞれ解雇することを発表した。
アパレルでコルテ・フィエル(Corte Fiel)、ペドロ・デ・イエッロ(Pedro de Hierro)、スプリングフィールド(Springfield)などのブランドグループのタンダム(Tandam)は11000人の社員を抱えているが、大規模な解雇を予定しているという。
旅行関係で19か国、34000人の社員がいるイベロスター(Iberostar)もグローバルに解雇を予定しているとしている。不調の日産スペインは3500人をその対象にした。
自治州で見るとバレンシア州は現時点で4683人の解雇、カタルーニャは3819人の解雇が実行された。(参照:cincodias.elpais.com)
政府の今回の一時雇用調整に伴う解雇された社員への給与の7割の支給、企業の社会保障費の負担分などを包括して政府は新型コロナウイルスによる危機を和らげるために170億ユーロ(2兆円)の予算を組んだ。
更に政府は社員が解雇されたことによって住宅ローンなどの支払いが出来なくなる可能性が十分なあると見て1000億ユーロ(12兆円)を銀行に保障した。支払いの滞納があった場合に政府が保障した支援金からその分を銀行が受けとれるというものだ。
更に電気、水道、ガス、電話などで同じく支払いが出来なくなる人を対象に補助金として830億ユーロ(9兆8800億円)を組んだ。
また、コロナウイルスの研究費として3000億ユーロ(35兆7000億円)を医学研究所に提供するとした。
以上からコロナウイルス危機に対して政府はGDPのほぼ17%に相当する2000億ユーロ(23兆8000億円)を救援金として組んだことを3月17日にサンチェス首相自ら発表した。
(参照:elconfidencial.com)