3月26日は12月決算会社の定時株主総会の2番目のピークでした(1番のピークは27日です)。本日開催された某東証1部上場会社の定時株主総会は、①社長が新型コロナウイルスに感染して入院中のため欠席、②他の取締役・監査役の5名が「濃厚接触者」「感染者に接触した可能性がある」ということで音声のみの参加、③一人の取締役は中国から帰国できず欠席、④最終的には14名の役員中7名がマスク着用のうえ総会に出席という状況で、(いくつか株主からの質問もあったようですが)1時間20分で無事終了に至ったそうです。
なお、会社の事前リリースでは、新中期経営計画説明会は(新型コロナウイルスによる事業への影響のため)延期、とのこと。
さて、私は3月9日のこちらのエントリーにおきまして、「3月総会を予定している会社の中には、総会を延期する会社も出てくるのではないか」と予想しておりましたが、予想に反して出てきませんでしたね。
たとえ法務省から「延期は基準日をずらすことで可能」といった見解が述べられても「配当による株主利益に配慮すれば、そんなに簡単に基準日を変更できるわけではない」というのが有識者の方々のご意見のようです。
まあ「総会集中日をなくすために7月総会会社を増やすべき」という議論はすでに10年以上前から会社法に詳しい方々の間では議論されてきたことなのですが・・・
ということで、3月総会を開催する上場会社では、万全の新型コロナウイルス対策をとったうえで、総会を運営されたようです。その対策としては、①総会の会場への出席よりも議決権行使書面の提出もしくはインターネットによる議決権行使をお勧めする、②体調が悪い場合には出席をご遠慮願う、③質問を制限する、④総会における業績の説明を省略して時間をできるだけ短縮する、といったところが多かったと思います。社会情勢からみて、このような運営もやむをえないとも思えます。
しかし、総会を延期するという選択肢もあるなかで、ガバナンス・コードと総会運営との関係性についても配慮すべきではないかと思うのです。
たとえば、昨今の株主総会では株主の意思決定機能(議案を成立させる機能)だけでなく、定量的な経営評価機能(たとえ可決されたとしても、どの程度の反対票が投じられたか、を経営に活かす機能、ガバナンス・コード補充原則1-1①)が重視されている中で、出席株主の質問数を例年よりも少なく制限できるのでしょうか。
限られた時間の中で、重要な質問とそうでない質問を整理して、できるだけ株主総会を活発化させよう、との趣旨で株主の質問数を制限した令和元年改正会社法の趣旨にも反するように思えます。
また、総会の時間制限や事前の議決権行使の勧奨が、「株主の権利の重要性を踏まえ、その権利行使を事実上妨げることのないように配慮すべきである」と定めるガバナンス・コード補充原則1-1③に抵触することはないのでしょうか。全体からみればごく少数の一般株主であったとしても、質問権の行使は当然のことながら株主の重要な権利行使です。この権利行使の制限は、基準日株主の配当への期待権と比較して正当化できるものなのでしょうか。
さらに、そもそも基準日株主の利益のために基準日をずらせない、といった会社の対応は、「株主との建設的な対話の充実や、そのための正確な情報提供等の観点を考慮し、株主総会開催日をはじめとする株主総会関連の日程の適切な設置を行うべきである」とするガバナンス・コード補充原則1-2③に抵触することはないのでしょうか。
株主への配当は、決算期ではなく、あくまでも配当の時点で会社が有する財産の中から支払われるものなので、当該コードをコンプライしているのであれば、このような状況だからこそ上記コードに準拠した行動が求められるように思います(参考 「会社法(第2版)」田中亘著 156頁)。
もとより、コーポレートガバナンス・コードにコンプライするかどうかは経営判断です。しかし、いったんコンプライした以上、これに反する行動は取締役の法令違反(善管注意義務違反)です。
「なにがなんでも総会は延期しない!予定どおり開催する!」という上場会社担当者の頑張りは称賛に値するのですが、そこに社長をはじめとする取締役・監査役の法令違反行為のおそれがないのかどうか、そこをどう合理的に説明できるのか、少し思い悩んでいるところです。
もし、冒頭にご紹介した某上場会社さんのような事態となった場合、それでも御社は予定どおりに株主総会を開催されますか?それが(総体としての)株主の合理的な意思と合致していますでしょうか?やっぱり株主の皆様は(たとえ総会を延期してでも)元気な社長さんの前向きな話を聴きたいのではないでしょうか・・・とても悩ましい問題です。
編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2020年3月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。