小池知事の「ロックダウン」発言によって、危機意識は一気に高まりました。同時に、緊急事態宣言と何が違うのか?その時、東京に何が起きるのか、都民の不安は果てしないと思います。
そこで、今後、想定される事態についてご説明しておきたいと思います。
小池知事はすでに、会見で、不要不急の外出や、酒場などへの出入りや平日夜間の外出の自粛を都民に要請しています。
また、都内の小中学校についても、国の要請に基づいて、都が都立学校の休校を決定し、区市町村立小中学校が、これに倣っている状態です。いずれの要請も、休校措置も、特措法などの法によるものではなく、総理や知事の立場で要請をしているということです。
緊急事態宣言とは?
それでは、緊急事態宣言とは何か?
国は、新型コロナ対策として、3月13日「新型インフルエンザ等特別措置法」を改正し、同法によって、「総理大臣が区域と期間を示し、緊急事態を宣言できる」ことになりました。
特措法による、各種機関に、法に基づく要請を行う場合には、総理大臣がこの緊急事態宣言を行う必要があります。
小池知事のとった行動
一方で、小池知事は先日の記者会見で「ロックダウン(首都封鎖)」について触れましたが、これは、危機感の薄れた都民への危機意識の喚起であり、緊急事態宣言が出されたあとの東京のことを指したものと考えられます。
小池知事は同時に、安倍総理と面会を繰り返し、総理によって、特措法に基づく「緊急事態宣言」を出すように要請したようです。
併せて、緊急事態宣言の発令後に、法に基づく要請を知事が発令できるとしても、交通機関の遮断などは権限に含まれていないため、近隣県からの、東京への人の流入を食い止める手段がないため、4県知事などとテレビ会議を行い、対応を協議しました。
安倍総理の対応
安倍総理は、小池知事からの要請を受け、緊急事態宣言を行うかどうかを慎重に検討しているのではないでしょうか。
以下のフローは、東京都総務局が作成したものですが、下記の通りの手順に従い、総理大臣は、有識者などと
協議を行い、その必要性が妥当と判断できた場合に、「区域と期間を示し、緊急事態を宣言」することになっています。
それでは、どのくらいの期間を総理が示すのかですが、これは、総理にしかわかりません。しかし、延長もできるようですので、仮に短期間の宣言であったとしても、状況次第で総理は、最長で2年間延長することができるようです。
緊急事態宣言を受けて、小池知事の権限は?
ここで、特措法にどのような記述があるか、付記しておきます。
特措法 第45条2項
特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等緊急事態において、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため必要があると認めるときは、新型インフルエンザ等の潜伏期間及び治癒までの期間を考慮して当該特定都道府県知事が定める期間において、学校、社会福祉施設(通所又は短期間の入所により利用されるものに限る。)、興行場(興行場法(昭和二十三年法律第百三十七号)第一条第一項に規定する興行場をいう。)その他の政令で定める多数の者が利用する施設を管理する者又は当該施設を使用して催物を開催する者(次項において「施設管理者等」という。)に対し、当該施設の使用の制限若しくは停止又は催物の開催の制限若しくは停止その他政令で定める措置を講ずるよう要請することができる。
ここで、はじめて法に基づく要請ができるため、社会的インパクトが増すことは言うまでもありませんが、以下は、権限の主な具体例です。
- 不要不急の外出自粛を要請
- 学校や映画館など多数の人が利用する施設の使用制限や停止等を要請
→ 正当な理由なく要請に応じない場合は使用制限や停止を指示
- 臨時の医療施設開設のため私有財産を使用
→ 正当な理由なく同意しない場合は、同意を得ずに使用可能
- 医薬品、食品、燃料等の所有者に売り渡しを要請
→ 正当な理由なく応じない場合は必要な物資を収用
併せて、特措法で使用制限の対象となりうる施設については、特措法を運用するための、施行令がありますので、こちらを付記します。
【特措法に基づき、使用制限の対象となる施設】(施行令による)
第十一条 法第四十五条第二項の政令で定める多数の者が利用する施設は、次のとおりとする。ただし、第三号から第十三号までに掲げる施設にあっては、その建築物の床面積の合計が千平方メートルを超えるものに限る。
一 学校(第三号に掲げるものを除く。)
二 保育所、介護老人保健施設その他これらに類する通所又は短期間の入所により利用される福祉サービス又は保健医療サービスを提供する施設(通所又は短期間の入所の用に供する部分に限る。)
三 学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条に規定する大学、同法第百二十四条に規定する専修学校(同法第百二十五条第一項に規定する高等課程を除く。)、同法第百三十四条第一項に規定する各種学校その他これらに類する教育施設
四 劇場、観覧場、映画館又は演芸場
五 集会場又は公会堂
六 展示場
七 百貨店、マーケットその他の物品販売業を営む店舗(食品、医薬品、医療機器その他衛生用品、再生医療等製品又は燃料その他生活に欠くことができない物品として厚生労働大臣が定めるものの売場を除く。)
八 ホテル又は旅館(集会の用に供する部分に限る。)
九 体育館、水泳場、ボーリング場その他これらに類する運動施設又は遊技場
十 博物館、美術館又は図書館
十一 キャバレー、ナイトクラブ、ダンスホールその他これらに類する遊興施設
十二 理髪店、質屋、貸衣装屋その他これらに類するサービス業を営む店舗
十三 自動車教習所、学習塾その他これらに類する学習支援業を営む施設
十四 第三号から前号までに掲げる施設であって、その建築物の床面積の合計が千平方メートルを超えないもののうち、新型インフルエンザ等緊急事態において、新型インフルエンザ等の発生の状況、動向若しくは原因又は社会状況を踏まえ、新型インフルエンザ等のまん延を防止するため法第四十五条第二項の規定による要請を行うことが特に必要なものとして厚生労働大臣が定めて公示するもの
知事の権限のポイント
緊急事態宣言が出た後には、該当区域の知事が、対象施設を定め、どの施設に何を求めるのか、規定する必要が生じます。
なお、飲食店は、上記に含まれていないため、飲食店の休業を求めることができる法律ではありませんが、上記の施行令とは別に、国が策定した「まん延防止に関するガイドライン」があり、そのなかで、上記11条の1〜14以外の施設である、飲食店や工場、銀行などであっても、「手指の消毒設備の設置」や「入場者数の制限等」の協力を知事が要請できると記載されています。
「まん延防止に関するガイドライン」(国が作成)
さらに、特定都道府県知事は、上記i〜xiii以外の以下の施設等についても、 特措法施行令第12 条で定める使用制限以外の対応を参考に、基本的対処方 針を踏まえ、手指の消毒設備の設置、入場者数の制限等の特措法第24 条第9項による協力の要請を行う。
a 病院又は診療所
b 卸売市場、食料品売場
c 飲食店、料理店
d ホテル又は旅館
e 寄宿舎又は下宿
f 車両の停車場又は船舶若しくは航空機の発着場を構成する建築物で旅客の乗降又は待合の用に供するもの
g 工場
h 銀行
i 事務所
j 保健所、税務署その他不特定多数の者が利用する官公署
k 公衆浴場
l 政令で定める施設であって、1,000 m²以下の施設
(i、ii及び特措法施行令第11 条第3項に基づき、厚生労働大臣が例 外的に定めたカテゴリーの施設を除く。)
特措法の実効性は?
知事は法に基づく、要請はできるものの、罰則規定がないため、実効性が疑われるとの指摘がありますが、特措法には以下のように定められています。
特措法 第二節 まん延の防止に関する措置
3 施設管理者等が正当な理由がないのに前項の規定による要請に応じないときは、特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため特に必要があると認めるときに限り、当該施設管理者等に対し、当該要請に係る措置を講ずべきことを指示することができる。
4 特定都道府県知事は、第二項の規定による要請又は前項の規定による指示をしたときは、滞なく、その旨を公表しなければならない。
上記から、知事の要請に従わない時は、知事は「指示」を出し、その旨を公表することから、指示に従わない施設は、公表されることになります。その点、高い実効性が担保されていると理解できるのではないでしょうか。
特措法に基づく要請の課題
一方で、交通機関を止めるなどの権限は付与されていないため、本数を減らすなどの判断は交通機関に委ねられます。
また、特措法においても、「不要不急の外出自粛」としているため、生活のために必要な外出は許容され、それ以外の自粛と解することができます。問題は経済活動になります。使用制限を求められた事業所は、営業継続が難しくなる一方で、使用制限を受けない事業体においては、時間差出勤など感染防止のご協力をいただきながら、事業継続していただくことになると思います。
そして、緊急事態宣言を出した場合には、どのような条件をもって、解除するか、こちらも極めて重要です。
ロックをかけるよりも、ロックを解除する判断の方が、難しくなることから、判断基準を予め設けておくべきでしょう。
特措法には補償はあるの?
特措法には、施設使用制限への要請、指示はあるものの、補償の規定はありません。
特措法に補償の規定はないため、特措法とは別に、発令にあたっては、主に国が補償の枠組みを作るべきとの議論はあり、現在、国でも検討されているものと考えます。
例えば、罰則付きの法律を有しているイギリスでは、休業従業員の給与8割を支給するなどの補償制度を設けています。
経営者にとっては、一日の休業だけでも莫大な損失が発生しますので、一定期間に及ぶ事業活動の停止は、経営の危機どころか、莫大な借金を抱え込み、生命の危機にさえ招きかねません。
そういう意味で、特措法での規定がなくても、影響を受ける事業者に対する補償や支援のあり方は、国とともに都も検討すべきです。
都民も、役所も、我々政治家も、経験をしたことのない事態に接しています。ここは、役所の一貫性、継続性、公平性といった平時の判断基準だけではなく、政治家が政治判断で、即決性、即効性、メッセージ性のある政策を断行していかなければならないと覚悟しております。
感染からも、経済からも、都民の生命を守る最善の道を示していきます。