新型コロナウイルスの感染拡大に伴う各国の休校措置で、世界の学齢児童生徒の約9割にあたる15億人を超える子どもたちが、学校に通えない状態が続いているという。
筆者の暮らすアメリカ・テキサス州でも、3月中旬に休校が決まった。先日、州知事が最低でも5月初旬までの休校延長を宣言、このまま夏休みまで対面授業は行われないだろうという見通しだ。
学齢期の2児の母である筆者の元に、最近、日本の教育関係者や休校中の子どもの教育に四苦八苦しているママ友から、アメリカのオンライン授業についての問い合わせが相次いでいる。オンライン化に踏み切れない日本の学校教育への苛立ちと不安、「アメリカはさぞや進んでるんでしょうね」という羨望が感じられるが、実際のアメリカはどうなのか。リアルなオンライン学習事情をレポートしたい。
PCは支給されていたが、期待はずれだったこととは?
一口にアメリカと言っても、そこは格差大国。教育環境にも、自治体によって大きなばらつきがある。公立学校の質の良さに定評のある、筆者の住む街の公立学校では、2017年から、義務教育であるキンダー(日本の年長児)から高校3年生までの全ての児童生徒に、校内で使用するため、一人一台のノートPC「Chromebook(クロームブック)」が支給されている。このクロームブックが普段から授業に活用され、子どもたちが慣れ親しんでいるという下地があったからこそ、3月中旬に突如、休校が決まった際の教育委員会の対応も素早かった。
休校期間中はオンライン授業を行うことと、そのために必要となるクロームブックを貸し出すことが、その日のうちに発表された。翌週、感染防止のため、校舎前のドライブスルーにズラリと車が並び、校長先生や教師たちがトランクに次々とクロームブックを運び込む様子は圧巻で、「さすがアメリカ」と感心した。
しかし、蓋を開けてみると、オンライン授業はやや期待はずれの面も。
すでにZoomなどを使ってライブ授業を開始している自治体もあるようだが、筆者の住むエリアを含む大半の自治体での現時点の授業は、グーグル・クラスルームやSeesawという課題共有アプリを使って、学習素材と提出物をやり取りするといった内容止まり。
朝、先生からアップされる課題リストにそって、指定された動画(教師が作成したオリジナルは少なく、ほとんどがYouTubeからの拾い物)を見たり、教育アプリにアクセスして、課題に取り組む。4年生の長女(9歳)は自分で入力したり、グーグルスライドで作成したりしたデジタル素材をクリック一つで提出してはいるが、キンダーの次女(5歳)は、紙に書いたものを写真に撮ってアップロードするというやり方で、アナログ感が漂う。
どちらにしても、普段から宿題の提出に使われているやり方で、子どもにも親にも、目新しさはない。
今後、休校期間が数ヶ月単位の長期になれば、ビデオ会議方式のライブ授業も検討してはいるようだが、Zoomのセキュリティーの脆弱さが指摘され始めたこともあり、行政側は慎重な姿勢を通している。
授業内容の「ゆるさ」がオンライン学習導入の速さを生んだ?
教育向け端末の浸透のほかに、アメリカでオンライン学習への切り替えが迅速に進められた理由として、そもそも、普段からの授業内容が「ゆるい」ことがあるのではないかと筆者は考えている。
学習素材として送られくる動画の大半が、YouTubeからの拾い物であることは先述したが、アメリカの教師は普段の授業でも、子どもにYouTubeを見せまくる。理科や社会でYouTubeが大活躍、体育はみんなでダンス動画を見て踊って終わり。算数の授業も、子どもたちがクロームブックで算数ゲームのアプリをやっているだけ、なんてこともあるらしい。とんだクロームブック活用授業である。
普段の授業がこの程度だと、オンライン学習への心理的障壁もぐっと下がるのではないだろうか。
日本人は生真面目すぎる
日本を離れて8年経っているため、最新の日本の学校教育の現場には疎いが、筆者が新聞記者として取材していた東京都や横浜市の小学校では、各校が特色ある学校つくりに取り組んでいた印象を持っている。これは逆説的なようだが、アメリカでは、日本より早くデジタル化が進む中で、そうした各教師の創意工夫をこらした授業というものが少なくなっているからこそ、オンライン学習移行へのハードルが低かったのではないか。
日本でも、休校が延長された横浜市が独自の授業動画の作成、配信を決めるなど、オンライン学習に向けて少しずつ動きが出てきているようだ。
日本人らしい生真面目さで、オンライン学習に一定の質と効果が担保されるまで動けないのも分かるが、先の見えないこのコロナ禍の中では、アメリカのゆるさを見習って、どんどん進めてもらいたい。「なんだ、この程度でいいのか」と思えるから。
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恩田 和(おんだ・なごみ)ライター、元全国紙記者
大学卒業後、大手新聞社記者、スポーツ紙駐米通信員、大手鉄道会社広報を経て、8年前から商社勤務の夫の海外転勤に随行。二児の母。