米失業率上昇、再選を狙うトランプ大統領の切り札とは

カバー写真:The White House/Flickr

米3月雇用統計は、新型コロナウイルス感染拡大による影響で大幅に悪化しました。

今年は米大統領選を控え、雇用統計の悪化は再選を狙うトランプ氏にとっては大いに気になるところでしょう。以下のチャートでお分かりの通り、1960年以降、大統領選イヤーを迎え失業率が上昇過程にあった年は4回あり、再選できた大統領あるいは与党候補の勝者はゼロでした(チャートの黄色枠、太字をご参照)。

作成:My Big Apple NY

さて、ここで気になるのが2020年の失業率の動向です。米3月雇用統計で失業率急伸を確認したほか、こちらでご紹介したように失業率は17%へ上昇するとの指摘もあり、トランプ氏にとっては逆風でしかありません。

しかも、失業率は浮動票が比較的多いとされるマイノリティで顕著となっています。黒人に至っては、2019年9月に過去最低の3.9%を付けたにも関わらず、20年3月には6.0%へ急伸してしまいました。

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トランプ大統領はホワイトハウスの声明で黒人の失業率が過去最低を更新したと喧伝していただけに、なかなか厳しい現実を突きつけられています。

しかも、歴史を紐解くと大統領選イヤー近辺での有事を受け、現職の大統領あるいは与党の大統領候補は敗北を喫してきました。

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ちなみに、米国でスペイン風邪が猛威を振るった1918年は、ウィルソン大統領(民主党)の下で中間選挙が行われ、共和党が1908年以来で初めて上下院で多数派を奪回しただけでなく、知事選でも勝利したものです。スペイン風邪が直接の原因というより、第1次世界大戦時のウィルソン氏の政策が物議を醸したためですけどね。

足元に視点を戻すと、トランプ氏が自身を「戦時中の大統領」と称するように、非常事態にほぼ毎日会見を行い対応中。3月以降、27日に署名した約2兆ドルの景気刺激策に先駆け3月6日に救済策第1弾(85億ドル)を、18日に第2弾(1,000億ドル)をまとめ上げ、3月だけで3本成立させました。

結果、支持率はうなぎのぼりで就任以来で過去最高水準にあります。

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支持率を高水準で維持できるかどうかは、終息後の情勢に掛かってくるのでしょう。トランプ大統領は3月18日に国防生産法(DPA)を発動しましたが、これを契機に、米企業に対し主に中国からの国内回帰を要請する場合も。欧州や英国との貿易交渉でも中国依存の危険性に警鐘を鳴らすと共に、再び欧州と英国に踏み絵を迫りかねません

その意味では、引き続きトランプ政権と安倍政権との連携はバッチリです。安倍政権の救済策第3弾には、一国集中の生産体制を見直し、国内拠点へ回帰を目指す企業向け金融支援に約2,500億円割り当てる方針ですからね。最終的には国内回帰だけでなく、中国包囲網の一環として、インド太平洋戦略に結び付く可能性もあるのではないでしょうか。あくま、トランプ政権存続を前提とした話ですけどね。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2020年4月6日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。