米国(NY)におけるスモールビジネス緊急支援策

鈴木 友也

東京でも、いよいよ一部事業者への使用制限が伴う緊急事態宣言が出るようですね。事業者への強制力を伴う措置が取られる以上、当然休業中の補償がセットになっているべきでしょう。また、使用制限の対象にならなくとも、外出自粛要請により飲食店や小売店などのB2C事業者には既に大きな影響が出ているので、こうした事業者に対する支援は一刻を争うものだと思います。

シャッターを下ろしたニューヨーク市内の店舗(Eden, Janine and Jim/flickr)

特に、資金的に余裕のない中小企業や個人事業主、フリーランスなどスモールビジネス従事者への支援が重要になってくると思います。

マッキンゼーの消費者調査によれば、コロナウイルスの感染拡大により飲食品への需要が増える一方、外食や衣料品、家具・電化製品、装飾品などへの需要が激減していることが明らかになっています。

私がビジネスの拠点を置いているNY(マンハッタン)は、良くも悪くもコロナ対応では日本の少し先を行っているため、スモールビジネス従事者への支援はかなり早い段階から用意されていました。参考までに、米国での取り組みをご紹介しようと思います。私のようにNY市に本社を置くスモールビジネス事業者は、概ね3か月程度の運転資金を補助金(返済の必要なし)という形で取得できる見込みです。それ以外にも、低利ローンなどの支援があります。

スモールビジネスへの支援はNY市と連邦政府の2つのレベルから提供されています。

1)NY市によるスモールビジネス支援

感染者が拡大することは目に見えていたので、NY市は既に3月8日時点でスモールビジネスへの支援を具体的に約束しています(この時点でNY市内の感染者20名、死者ゼロ)。ちなみに、NY州が外出禁止令を出したのは、3月22日(日)の午後8時からでしたから、NY市による支援は州が外出禁止令を出す2週間も前のタイミングで発表されていたことになりますね。

NY市による支援策として、以下の2つのプログラムが用意されています。

1-1)Employee Retention Grant Program

従業員5名以下の零細企業を対象としたもので、昨年同時期比で売り上げが25%以上減っている事業者は、2か月分の給与総額の40%相当の補助金を受けることができるというものです(返済不要)。金額的には、ざっくり1か月分の運転資金が支援されることになります。

これ、素晴らしいのは補助金申請が全部オンラインで出来ちゃうところです(申請先はNY市)。確認メールが届かなかったり、書類のアップロードができない時があるなど小さなバグはあるのですが、スピード重視で対応してくれる方が事業者は嬉しいですよね。

ちなみに、この補助金は4月3日17時が締め切りだったのですが、応募者多数で締め切り前に申請の受付を止めてしまってました。日本だと文句が出てくるところかもしれませんが、自己責任の国アメリカでは、「チャンスを逃すのは自己責任」というのがサバイバルの掟ですから、あまり文句を言う人もいないようです。

1-2)Small Business Continuity Loan Fund

従業員100名以下の中小企業を対象としたもので、昨年同時期比で売り上げが25%以上減っている事業者は、7万5000ドルを上限に無利息でローンを受けることができるというものです。

2)連邦政府によるスモールビジネス支援

これは連邦政府内の中小企業庁(SBA)が提供しているもので、補助金・ローン関連では以下の2つのプログラムが用意されています。

2-1)Paycheck Protection Program(PPP)

従業員500名以下の中小企業を対象としたもので、無条件で月額給与総額の2.5倍を上限に融資を行うというもので、給与や家賃の支払いに充てられる限り、返済免除になります(後からちゃんとチェックされるみたい)。従業員1名あたり10万ドルが上限になるという条件はありますが(年収10万ドル以上の従業員は、金額に関わらず計算上は全員10万ドルとなる)、悪くない金額です。

これは4月3日から申請受付が始まりましたが(申請先は金融機関)、まだ金融機関での対応が追い付いていないようで、申請を受け付けているところは少数のようです。こちらの申請期日は6月30日なので、まだ余裕はあります。

2-2)(Economic Injury Disaster Loan=EIDL、「アイドル」と読みます)

従業員500名以下の中小企業を対象としたもので、上限1万ドルの補助金です(返済不要)。PPPとの併用はできないみたいで、どちらか補助金額が多い方に吸収されるようです。

以上、NY市と連邦政府による主な支援策をご紹介しました。支援内容は細かい部分が日に日に変わるので、これからもどうなるか分かりませんが、「早いタイミング」で「補助金(ローンではない)」を提供できる形にどんどん変わっているように見えますね。

支援の公平性を考えているときりがないですし、とにかく今はざっくりしたものを早くローンチするのが先決です。こういう荒業はアメリカは得意なので、スモールビジネス経営者としては頼もしい感じがします。

「Stay Home」の街頭告知(マンハッタンで、Eden, Janine and Jim/flickr)

最後に、最近(ここ1週間くらいで)、日本の知り合いから「NYは大変みたいですけど大丈夫ですか?」という心配のご連絡を結構頂いたのですが(ご連絡を下さった方、ありがとうございます)、どうも話しているとアメリカの都市も武漢やイタリアのようにロックダウン(都市封鎖)されているというイメージを抱いている方が少なくないような気がします。

少なくとも僕の住んでいるNY州ではロックダウン(都市封鎖)はされていません(他州も同様だと思います)。電車もバスも普通に動いています。州からの行政命令(通称PAUSE)により、日常生活に欠かせない事業を除くビジネス(non-essential business)が閉鎖され、個人の外出が条件付きで禁止されているだけです。食料品の買い物はもちろん、一人での散歩やジョギング、犬の散歩なども、ソーシャルディスタンスが保てる範囲で認められています。個人に対する罰則もないので、基本的には自粛要請と同じです。警察が道を封鎖しているなんてこともありません。

むしろ、こんな状況にも関わらず自宅待機令を出していない州がまだ7つもあり、それに対してトランプ政権が米国全土での外出禁止令を出さないことが逆に問題視されています(票田である保守的な州が多いため、トランプは無理に要請したくない)。

要は何が言いたいかというと、今この危機で問われているのは、法律の整備状況とか権限云々ではなく、国民一人一人の「常識」だということです。国や会社ではなく、個人の強さが求められています。感染爆発の瀬戸際にある日本の皆さんには、是非常識的な判断をして頂きたいと思います。

ちなみに、私はいたって元気です。田舎暮らしですから、ソーシャルディスタンスが言われる前から、そもそも日常生活の中で他人と至近距離で交わる機会はほとんどありませんのでw。さすがにマンハッタンへの出勤は控えていますが。


編集部より:この記事は、在米スポーツマーケティングコンサルタント、鈴木友也氏のブログ「スポーツビジネス from NY」2020年4月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はスポーツビジネス from NYをご覧ください。