「知的財産」成功するビジネスと苦労するビジネス

ごく最近、知的財産権についての書き物に触れる機会がありました。それを読んでいてふと思ったことは「知的独創性は財産になる」であります。

「人間の知的活動によって生み出されたアイデアや創作物などには、 財産的な価値を持つものがあります。 そうしたものを総称して『知的財産』と呼びます」(日本弁理士会ウェブより)とあります。その中でも法律に基づいて保護されるものが弁理士の業務になるわけですが、ビジネス一般に法律で守られるかどうかは別として知的財産となるような仕事をしなくては生きていけないともいえます。

中華料理の世界に料理のマニュアルはありません。料理人が「知的財産」だと考えているからです。かつて、ある中華の料理人と話したとき、「なんで俺が苦労して見つけ出したこのレシピを店のために紙に書いて残さねばならないのだ。これをずっと持ち続ければ俺はどの店でも仕事ができる」と言い放ったのが非常に印象的でした。

どんな世界にもまねできない深い技術やノウハウ、経験などが詰まっている商品やサービスは存在します。ところがコンピューターの時代になった時、我々はマニュアル文化をより強力に推進してしまいました。いわゆる「コピー&ペースト」文化であります。コンピューターでコピペするあれです。どこかのウェブからひょいとコピーすればどんなものでも一瞬のうちに自分のものにすることができます。どこかのビジネスをひょいと真似ればいいともいえます。パンケーキブームなどはその典型でした。

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今、多くのチェーン店で展開しているのはこのコピー&ペースト方式であります。元祖の一つが日本のマクドナルドだったと記憶しています。完全なマニュアル化でどこの店に行っても金太郎飴状態でした。

ところがマクドナルドはある意味、社内で知的財産を独自に生み出し圧倒的シェアを確保した点が現在の強みだと思います。多くのその他のチェーン(飲食に限りません。アパレルでもファッションでも日用品でも同じです)は同様の展開を図っているものの非常に限られた知的財産をてこに無理に拡大戦略を図ったように見えるのです。

例えば「いきなり!ステーキ」のペッパーフードサービスの有価証報告書に「継続企業の前提に関する注記」がついてしまいました。何を意味するかといえば「相当頑張らないと事業継続できないかもしれませんよ」という投資家や取引先に対する警告であります。なぜ、あの事業が苦境に陥っているか、皆さんの方がよくご存じだと思いますが、私から見れば一瞬のうちにレッドオーシャン化する非常に脇の甘いビジネス形態であったのに無理な多店舗展開を図ったということかと思います。

私は最近のIT/テクノロジーブームもレッドオーシャン化して相当の淘汰が進むと思っています。例えばAIは1年前まではもてはやされました。今、この業界は詰まっています。理由は数あるAI専門会社の中で技術的差別化ができなくなっているのです。日本で唯一といわれるユニコーンでAIの専門会社、プリファードネットワークスも差別化のため、ソフトからハードにシフトしているとされます。

便利なアプリを作るというビジネスを目指す起業家も多いのですが、アプリそのものが収益を生まず、かつ、次々とその上を行くアプリが出てくるとすればアプリの事業者は常に全速力で走り続けなくてはいけません。これは継続性という意味で極めてリスクが高いのです。

成功するビジネスは私の頭では2つしかありません。一つは地道に自分のコントロールできる範囲で着実に歩を進めるやり方、もう一つは圧倒的マーケットシェアを確保し、追随を許さない方法であります。街の偏屈寿司屋のオヤジになるか、覇権するのか、であります。

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私は一時圧倒的マーケットシェア確保への挑戦をしたことがあります。当地のある巨大マリーナの買収を目論みたのです。それが成功すれば私はBC州で有数のマリーナ所有者になれるところでした。が、買収交渉は最後の最後でどんでん返しで流れてしまいました。それ以外にもいくつかのマリーナ買収を試みましたがこの業界は鉄壁で大きくするのは困難と結論付けました。それからは自社のマリーナの経営に磨きをかけることに注力し、今に至ります。多分、今後も安定的に推移するでしょう。

経営指南書にはテクノロジーをとりこむことを重視していますが、経営の本質からはテクノロジーは補助にしかならないのです。経営とは知的財産をどれだけ生み出せるかにかかります。そういう意味でダイソンやアイリスオーヤマのような創造力が高い会社はとても参考になります。かれらは決してテクノロジーオリエンテットではなく、自社の発明能力とテクノロジーがうまく共存しているのだということでしょう。

知的財産、深く考えさせられます。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年4月7日の記事より転載させていただきました。