こんにちは、音喜多駿(参議院議員 / 東京都選出)です。
緊急事態宣言が効力を発揮してから2日目、いまだに国と都による綱引き、最終調整が続いています(※編集部注・執筆時点の9日夜)。
小池都知事 休業要請で国と調整「スピード感重視で」(NHK)
特措法に基づく緊急事態宣言が発令されると、都道府県知事は「外出自粛要請」と「施設の営業自粛要請」を行うことができますが、両方を実行しようとしている都(感染症対策重視)と、前者のみに留めたい国(経済活動重視)との間で方針の相違が生じています。
未曾有の事態で「正解」がない中、感染症対策と経済活動のバランスをどう取るか、非常に難しい決断を迫られていることは確かです。
しかしだからこそ、より住民に近い立場で責任が負える「都道府県知事」にこそ、最終的な裁量・決定権が与えられているのが特措法。
だったはずでした。
ところが、施設まで自粛要請をするつもりだった小池知事の方針に国が介入し、現在の迷走に至っています。橋下徹さんの指摘は的確ですが、
これに対して担当の西村大臣は「法に基づき対応している」と反論しています。
特措法を改めて検証したところ、さすがに最強のブレーン集団・精鋭官僚たちがついているだけあって、確かに外形的には「法に則っている」と言えなくもありません。
しかしそれでもなお、今回の国のやり方はあまりにも問題が大きいと思います。
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小難しい話ですが、なるべく噛み砕いて説明していきましょう。
特措法では、その第45条で自粛要請などの強い権限を都道府県知事に与えています。ちょっと長いですが、全文を引用しておきます(太字だけ読んでくれればOK)。
第四十五条特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等緊急事態において、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため必要があると認めるときは、当該特定都道府県の住民に対し、新型インフルエンザ等の潜伏期間及び治癒までの期間並びに発生の状況を考慮して当該特定都道府県知事が定める期間及び区域において、生活の維持に必要な場合を除きみだりに当該者の居宅又はこれに相当する場所から外出しないことその他の新型インフルエンザ等の感染の防止に必要な協力を要請することができる。
2 特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等緊急事態において、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため必要があると認めるときは、新型インフルエンザ等の潜伏期間及び治癒までの期間を考慮して当該特定都道府県知事が定める期間において、学校、社会福祉施設(通所又は短期間の入所により利用されるものに限る。)、興行場(興行場法(昭和二十三年法律第百三十七号)第一条第一項に規定する興行場をいう。)その他の政令で定める多数の者が利用する施設を管理する者又は当該施設を使用して催物を開催する者(次項において「施設管理者等」という。)に対し、当該施設の使用の制限若しくは停止又は催物の開催の制限若しくは停止その他政令で定める措置を講ずるよう要請することができる。
一方で第20条には、政府対策本部長≒国が「基本的対処方針に基づき…総合調整を行うことができる」と書かれています。
第二十条 政府対策本部長は、新型インフルエンザ等対策を的確かつ迅速に実施するため必要があると認めるときは、基本的対処方針に基づき、指定行政機関の長及び指定地方行政機関の長並びに前条の規定により権限を委任された当該指定行政機関の職員及び当該指定地方行政機関の職員、都道府県の知事その他の執行機関(以下「都道府県知事等」という。)並びに指定公共機関に対し、指定行政機関、都道府県及び指定公共機関が実施する新型インフルエンザ等対策に関する総合調整を行うことができる。
ここが、今回の問題点です。
その「基本的対処方針」ですが、当初はまん延防止対策について「都道府県は…的確に打ち出す」とだけ書かれたシンプルなものでした。
これなら都道府県知事は、法の範囲内で地域事情に合わせて、広範な裁量をふるうことができます(それこそがこの法の目指す趣旨のはず)。
ところが。
これに基づいて都が方針を固めたのは4月6日。その翌日である4月7日に国がこの「基本的対処方針」を大幅に書き換えます(根拠は法第32条第6項)。
新しくなった基本的対処方針では、「施設の使用制限、指示等を行うにあたっては、特定都道府県は、国に協議の上、必要に応じて専門家の意見も聞きつつ…行うこととする」となっており、明らかに知事の裁量に『縛り』をかけました。
「国に協議の上」という変更後の基本的対処方針を根拠として、国は「総合調整」という名の下で東京都に圧力をかけているわけですね。
こうして東京都は、準備していた方針に緊急事態宣言発表の当日になってストップをかけられ、今に至る迷走・調整と言う名の闘いが続いてきました。
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こんな「後出しジャンケン」で基本的対処方針が書き換えられ、都道府県知事の裁量が制限されることは、非常に問題が大きいと言わざるを得ません(そもそも、国と協議が必要ならば3月28日時点で「国に協議の上」と明記しておくことも可能であったはずです)。
法の第45条で都道府県知事に対して明確に強い裁量を与えているにもかかわらず、第20条の
「必要があると認めるときは、基本的対処方針に基づき」「総合調整を行うことができる」
という条文を使い、「基本的対処方針」に国との協議を必須と明記することで、自動的に総合調整が必要な状況に持ち込み知事の権限に縛りをかけるのは、ある意味では法律を「上書き」する行為とも言えます。
そんな法律の「上書き」が政府に許されるのであれば、他の様々な法律も骨抜きにされ、形骸化する恐れがあります。
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経済停滞を最小限にするため(そして補償金を出さないため)、施設の自粛にまで踏み込みたくない国。
足元の感染爆発を抑え込むことを最優先とし、住民の外出自粛とともに施設の自粛に踏み込みたい都。
繰り返しになりますが、極めて難しく正解がない問題だからこそ、地域を預かる長に裁量が与えられているわけで、その法の趣旨に基づいて都道府県知事が決断を下せるのが望ましい体制だと私は思います。
国や多くの政治家が絡むと業界団体の陳情合戦が始まり、「利権」に意思決定が左右されてしまいがちなことも大きな問題です。
今回、なぜ「後出しジャンケン」で基本的対処方針が変えられたのか。果たしてそれは法の趣旨に則り、適切な対応だったのか。
今日以降の国会審議がどうなるかは不透明ですが、然るべき場でしっかりと確認しつつ、都道府県知事が主体的に意思決定できる仕組みづくりができるよう、法改正も視野に入れて提案を続けていきます。
それでは、また明日。
編集部より:この記事は、参議院議員、音喜多駿氏(東京選挙区、日本維新の会)のブログ2020年4月9日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は音喜多駿ブログをご覧ください。